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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

私的2022年アニメランキング:ベスト20

オタク、楽曲10選はやるのにアニメ10選をやらないのは何故なんだ(回文)

 

年末のあれこれまとめる流れが好きなんですよね。今年買って良かったものとか読んでよかった本とか楽曲10選とか。

人の好きな作品を知って自分の興味を広げたりその人の好みを吸収したりしたいんですよ。みんなも教えてくれ。

 

それではやっていきます。

 

▼私的2021年アニメランキング:ベスト20はこちら

kuh-10.hatenablog.com

 

 

まずは16位まで。

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◆20位『地球外少年少女』

◆19位『Engage Kiss』

◆18位『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』

◆17位『異世界おじさん』

◆16位『アキバ冥途戦争』

 

『宇崎ちゃんは遊びたい!ω』や『異世界おじさん』は安心して見られるタイプの作品でしたね。肩肘張らずにゆったりと見られるというか。

『アキバ冥途戦争』に関してはP.A.WORKS制作ということで放送前からどのような作品になるのか気になっていましたが、予想外の方向性のアニメで笑いました。作品の空気感をオープニングからエンディングまで一切の妥協なしに作り込んでいるのは流石すぎる…。

 

続いて11位まで。

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◆15位『よふかしのうた』

◆14位『ラブライブ!スーパースター!!第2期』

◆13位『ぼっち・ざ・ろっく!』

◆12位『その着せ替え人形は恋をする』

◆11位『明日ちゃんのセーラー服』

 

ラブライブ!スーパースター!!』は1期が良かっただけに、2期の強引なストーリー展開は正直残念でなりません。新たに1年生が加わったことで話数を食うのは仕方ないことなのですが、それによってどうしても物語の厚みがなくなるんですよね。だからLiella!の行き着く先にエモーショナルが足りない。3期がどうなるのかは気になるところですが、2期単体で見た時にどうしてもマイナスの感情が先行してしまいます。

逆に『ぼっち・ざ・ろっく!』や『その着せ替え人形は恋をする』は話数を重ねるごとに面白みを増していき、期待を上回ってきました。両作とも細部の作り込みが行き届いている印象で、とても良かったです。

『明日ちゃんのセーラー服』は面白さというよりも、職人技的な質感の良さを楽しんでいました。楽曲や映像美は原作の特徴を最大限アニメに昇華させていたと思いますし、青々しい学生の感情の渦を綺麗に描いていましたね。

 

さて、ここからはトップ10。

 

 

  10位『サマータイムレンダ』

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作品の出来のわりにあまり話題になっていなかったのは、放送当時のサブスクが独占配信だったからでしょうか。

やはりこの手のSFサスペンスはアニメ化する上で次回への引きの強さはひとつ大事な要素かと思いますが、その意味ではしっかりと計算されていたと思います。かなり不気味な描写も多く、音楽も味があってその雰囲気を引き立てていて良かったです。

 

 

 

  9位『チェンソーマン』

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何かと話題の『チェンソーマン』。アニメ化の情報が出た時の制作・MAPPAの文字列は納得感がありました。スピード感と緊迫感のある戦闘シーンはアニメ向きだと思います。噴き出す血や悪魔のおどろおどろしさもカラーやモーションがつくことで作品の輪郭をはっきりさせてくれますし。

ただ、本作の何気ない日常シーンや交わす会話に宿る質感の良さは、マンガだからこそ活きる表現なのかもしれません。前提として『チェンソーマン』はコマを追う目線誘導の独特さが良いとも言えるので、ただ動きのあるアニメーションにすれば楽しめるというものでもないんですよね。そういった意味で、アニメも非常に面白いんですけれど期待は超えてこなかった印象です。

 

 

 

  8位『ようこそ実力至上主義の教室へ 2nd season』

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2期になってから登場人物の交差する思考やせめぎ合いが白熱してより面白さが増しました。キャラクターや舞台の設定などラノベ原作らしいものですが、リアルすぎないからこそストーリーを現実と切り離して見られるのが逆に良いんです。

キャラクターの造形も計算高く設定されていて、二転三転していく物語は毎週楽しく追っていました。

 

 

 

  7位『からかい上手の高木さん3』

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シリーズを追うごとに縮まる2人の距離。むず痒くもピュアな青春模様を毎話楽しく見させてもらいました。

話の流れが大きく変わるかというと決してそうではないのですが、人の人の距離ってちょっとずつ縮まるものだよねっていう納得感はしっかりとあって。それでいてこの2人の空気感ははっきりとしていて、落としどころが分かっているからこそ終わってほしくないとも言える、ずっと見ていたくなるようなストーリーでした。

 

 

 

  6位『SPY×FAMILY』

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気付いたら老若男女問わず大人気作品になっていますけど、自称アニメ好きでアーニャのLINEスタンプを送ってくる輩は信用するなっておばあちゃんが言ってました。

さすがの期待作だけあって制作陣からタイアップ曲から大人達の本気を感じるアニメ化ですよね。原作を読んでいる時よりもすんなり入り込めた自分がいて、世界観の作り込みとテンポの良さはやはり凄いものがあると感じています。

劇場版の公開も決まり、まだまだ偽りの家族の行方は見られそうです。

 

 

 

  5位『鬼滅の刃 遊郭編』

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劇場版の後を描く遊郭編もゴリゴリに動くカメラワークと色彩豊かなエフェクトで繰り出される描写に圧倒。アニメで描く意義を感じられます。

劇場版での煉獄さん然り、キャラクターにきちんとスポットが当たるので背景なども相まって魅力づけにも繋がっています。続編も楽しみです。

 

 

 

  4位『ハコヅメ』

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原作が話題だったので放送が楽しみだった1作。コメディタッチで描かれているので警察事情がスっと入ってくる感覚が小気味よく、主人公が新米警察官ということもあってこちら側の視点と近しいのも分かりやすくて良い。

さらにはその時々の事件に関わる人達のヒューマンドラマも織り交ぜられているので、ただのコメディに留まらない、作品の奥行きもあります。

 

 

 

  3位『進撃の巨人 The Final Season Part2』

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話数を重ねるごとに次々と明かされる新事実。迫力のバトルシーンも含めて見入ってしまいます。

これほど伏線を散りばめながら人々の生き死にを臨場感たっぷりに描く様は、長く続く海外ドラマやシリーズものの映画を見ているかのよう。新たな局面を迎える最終章となる本アニメ、最終話まで待ち遠しいです。

 

 

 

  2位『BLEACH 千年血戦篇』

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令和にこのクオリティでBLEACHを拝める喜び。世界観に沿った演出や音楽で彩ってくれているのがとにかく嬉しいです。

『千年血戦篇』は冒頭から一気に物語が動き戦闘シーンも多いで、どの戦いも見応えがあるがゆえに作画班は大変なんだろうなと思います。しかしながらそこに一切の妥協はなく、目でも耳でも楽しませてくれる。

分割4クールということで、まだまだ楽しみは続きそうです。

 

 

 

  1位『リコリス・リコイル』

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オリジナル作品であるからして、毎週の楽しみだった本作。ストーリーの着地として綺麗なところに落ち着いた印象は拭えませんが、1クールで描ききったアニメのクオリティとしては他作品と一線を画していたと思います。

キャラクターの魅力や物語の設定、それらをシャープに描いていく脚本と演出、バランスの良さがとにかく際立ちました。舞台での展開もあるとのことで、アニメの続編にも期待が高まります。個人的にはもう少し振り切った物語展開を見てみたいと思いますね。

 

蓋を開けてみたらジャンプ原作の作品がかなり上位を占めました。歳を重ねるごとに自由な時間をいかに有効的に使うかという考えが強くなったこともあり、前評判や口コミで名前を目にすることの多い作品に手を伸ばしがちなのは事実。そう思うと、ストーリーに起伏があり安定感もあるネームバリューに富んだ作品に手を伸ばすことの多くなるのはある程度必然な気はします。

そのような中で『リコリス・リコイル』のようなオリジナル作品も一定数求めていて。年にそういくつも出てくるものではないと思うので、そんな作品が出てきた時には喜びがあります。来年も毎週ワクワクするような作品に出会いたいですね。

 

というわけで私的2022年アニメランキングでした。

オタクの皆さん良いお年を。

来年もよろしくお願いします。

私的2022年楽曲10選

今年も気付いたら年の瀬。

忙しくなりがちな時期ではありますが、1年の振り返りをしながら来年に思いを馳せる年末の空気感が好きだったりします。

 

そんな1年を締めくくるタイミングということで、やっていきます楽曲10選。

再生している音楽の幅が広くないながらも、その年の楽曲を振り返ることは毎年やっていて。コアなところまで手が届いていないので選曲は面白みがないのですが、来年は聴く楽曲の範囲を広げたいと毎年言っている気がする。絶対その気ないだろ、年々老いていくオタクの腰の重さを舐めるな。

 

それでは、2022年1月〜12月リリースの楽曲から選定していきます。

 

 

▼私的2021年楽曲10選はこちら

kuh-10.hatenablog.com

 

 

はじまりのセツナ/蝋梅学園中等部1年3組

【作詞・作曲】杉山勝彦

はじまりのセツナ

はじまりのセツナ

  • 蝋梅学園中等部1年3組
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<どうしてなの? もう君のことが好き  はじまりのセツナ>

耳触りが良く中毒性を帯びた安心の杉山勝彦サウンド。『明日ちゃんのセーラー服』のオープニング曲として、眼前の可愛らしいヒロイン達の眩しさや青さといったフレッシュ感が存分に感じられます。

 

更には歌詞も作品の色を非常に強く押し出していて。

『大きく手を振る 君がとても綺麗で 振り返すことも忘れそうだよ』『相槌を打ってる君の瞳は 胸のロック開けるパスコードみたい』

ゴリゴリの恋愛モノかな?いくらなんでもピュアすぎる。青春ど真ん中かよ。

女子中学生のキラキラとした「今」を切り取った作品らしさが溢れる歌詞に脱帽です。

 

 

 

Darkness Sympathizer/LizNoir

【作詞・作曲】Q-MHz

Darkness sympathizer

Darkness sympathizer

  • LizNoir
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<甘く切ないよりも 強くてほろ苦い夢で逢ったら 特別な気持ちが生まれて燃えるのかもね>

LizNoir名義で輩出される楽曲は本当に外しませんね。『IDOLY PRIDE』の作中でも主人公らのライバルにして頂点として描かれていた彼女達ですが、その王者たる風格やカリスマ性がひしひしと感じられるんですよね。

掛け合いがとても気持ちよくてスフィアの面々の長年の経験が爆発していながら、それでいて1曲を通しての一体感が凄い。かなり中毒性が強いです。いつかライブでやってくれ。

 

 

 

ミックスナッツ/Official髭男dism

【作詞・作曲】藤原聡  【編曲】Official髭男dism

ミックスナッツ

ミックスナッツ

  • provided courtesy of iTunes

<仮初めまみれの日常だけど ここに僕が居て あなたが居る>

イントロから既に髭男の才能がほとばしりすぎているんですけど、タイアップである『SPY× FAMILY』との親和性がとにかく異次元。

偽りの家族であるフォージャー家の関係性をミックスナッツに例えるに留まらず、その幸せこそが悪とも捉えられるスパイという立場を歌詞に重ねていく所業。バケモンですか?

サウンドも情報量が多すぎて頭がおかしくなりそうになるんですけど、この脱法ナッツを摂取していても捕まらないかだけが不安。イントロの「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙」って叫んでるの、この脱法ナッツを口にして頭がおかしくなった人だろ。

 

 

 

GO!! リスタート/Liella!

【作詞】宮嶋淳子  【作曲】石黑剛・常楽寺澪  【編曲】石黑剛

Go!! リスタート

Go!! リスタート

  • Liella!
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<刺さったままのとげが背中押すのは  変われたシグナル>

ラブライブ!スーパースター!!』アニメ1期で流した涙を2期で糧として勝利に向かっていくLiella!の覚悟を感じる1曲なんですけど、決して暗い気持ちではなく明るく歌い上げるんですよ。

加えて、新入生を1人迎えての初パフォーマンスで作られた楽曲ということもあり、なかなかドラマ性を帯びているのも良いです。アップテンポのメロディもお気に入り。

 

▼渋谷かのんの主人公性について書いています

kuh-10.hatenablog.com

 

 

 

Cherish/石原夏織

【作詞】磯谷佳江  【作曲・編曲】ヒゲドライバー

Cherish

Cherish

  • provided courtesy of iTunes

<大事な人 大事にしたいな それって 自分もちゃんと大事にすることかも>

可愛らしくポップでありながらどこか懐かしさも感じるキャッチーな1曲。

前向きなメロディの中に、普段忘れがちな大切なことを思い出させてくれるような歌詞が散りばめられています。耳に残る音のギミックが所々にあって、刺さる人にはとことん刺さる楽曲なんだろうなと思いますね。

MVも見応えがあってとても可愛い仕上がりに。恥ずかしながらタイアップ作品には触れていないのですが、そちらの方面にも意識を寄せていることははっきりと伝わってきて、かなり作り込まれていることが分かる楽曲です。

 

 

 

ピグマリオンUVERworld

【作詞・作曲】TAKUYA∞

ピグマリオン

ピグマリオン

  • provided courtesy of iTunes

<相手の気持ちは分からない  抱きしめもせずに分かるはず無い>

世界的に人気のある著名人が幸福を感じていない、大国の上に立つ人が核兵器をチラつかせる…そんな一見理解し難いことも実際にはその人の立場にならないと悩みなんて分からない。誰かが苦しんでいても本当の意味でその人の悩みは当人にしか分からないから、せめて大切な人に寄り添ってあげよう。

そんな優しさや人としての尊みを力強くも包み込むように歌い上げられる1曲となっています。サウンドとしてもかなり過剰にエフェクトを多用している楽曲なんですけど、それが味になっているというか。メッセージ性だけでなく単純にメロディーも好みです。

 

 

 

ギターと孤独と蒼い惑星/結束バンド

【作詞】ZAQ  【作曲】音羽-otoha-  【編曲】akkin

ギターと孤独と蒼い惑星

ギターと孤独と蒼い惑星

  • 結束バンド
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<馬鹿なわたしは歌うだけ  ぶちまけちゃおうか 星に>

『ぼっち・ざ・ろっく!』の劇中で披露されたこの楽曲。主人公ぼっちの気だるさを帯びながらも胸の底に渦巻く鬱憤のような感情を乗せてギターを掻き鳴らし解き放っているような楽曲だなって思いました。

コミュ障だから人との心の距離は少し遠いかもしれないけれどうちに秘めたものを音楽にぶつけている、そんな作中の描写をここまで詩に落とし込むZAQの力量も素晴らしいですね。ラスサビで『聞いて』→『聴けよ』と繋がって意志が爆発しちゃうのも好き。

 

 

 

KICK BACK/米津玄師

【作詞・作曲】KICK BACK  【編曲】米津玄師・常田大希(King Gnu / millennium parade)

KICK BACK

KICK BACK

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<「止まない雨はない」より先に その傘をくれよ>

チェンソーマン』のオープニングとしてはもちろんPVも話題になっていますが、ここまでタイアップに寄り添いつつ個性をしっかり崩さずに米津×常田コラボの色を確立させているのが凄い。

この楽曲、入りの常田ベースからもうカッコよくて膝を打つんですけど、これでもかと転調してきやがって聴いてるこっちも負けじと転げ回るしかないんですよ。でもサビではしっかりとキャッチーなテンポに仕上げていて米津色もしっかり出ている。

そして歌詞もまたタイアップのために作り込まれていて、聴けば聴くほどデンジにインタビューして書かれているとしか思えない。所々の言葉選びにデンジの幸福指数の低さが息づいているんですよ。その凄さにこっちがどうにかなりそうだしこれもう悪魔の仕業だろ…。

 

 

 

五等分の花嫁~ありがとうの花~/中野家の五つ子(花澤香菜竹達彩奈伊藤美来佐倉綾音水瀬いのり)

【作詞】結城アイラ  【作曲・編曲】中村巴奈重

五等分の花嫁~ありがとうの花~

五等分の花嫁~ありがとうの花~

  • provided courtesy of iTunes

<「ありがとう」を誓いにして 大きな愛を育もう  そう彼となら大丈夫だね>

映画『五等分の花嫁』のエンディング主題歌として劇場で流れた瞬間、思わず膝から崩れ落ちてしまった…。(立って映画を観るオタク)

完結編としてストーリーにピリオドを打った後に歌われる楽曲としてあまりにも儚いんです。

 

そもそも本作は五つ子のうちの1人が主人公と結婚することが冒頭に示唆されていて、果たして誰が花嫁となるのかという観点でも楽しめる作品ですけど、この楽曲は選ばれなかった4人が花嫁に対してお祝いの気持ちを歌うんですよね。でも、そこにはちょっとした寂しさや自分の恋心との決別も見え隠れするんです。メロディーラインも相まって胸が締めつけられます。……もういいよ風太郎…残った4人は俺が幸せにするから。

 

▼映画『五等分の花嫁』感想はこちら

kuh-10.hatenablog.com

 

 

 

花の塔/さユり

【作詞・作曲】 さユり 【編曲】宮田'レフティ'リョウ

花の塔

花の塔

  • provided courtesy of iTunes

<連れて行って見たことない星まで  世界の端と端を結んで>

オリジナルアニメでありながらストーリー展開やキャラクターの可愛らしさが話題だった『リコリス・リコイル』。そのエンディングを飾った本楽曲は、作中でのイントロの入りがどれも印象的でした。アニメの引きの良さもあって最後まで目を離すことを許さずエンディングにも直結してくるので、作品との一体感はかなり感じましたね。

 

世界の違和感を皮肉り、この日常から抜け出していきたいと渇望する様がアニメを投影していて。それでいて2番でキーが下がりしばしの落ち着きを見せていくだけでなく、1番では『知らない名前のお花』と歌われていたのに2番では『フウセンカズラ』としているのも解像度が上がっていて、作中のキャラクターの心情の変化とリンクします。楽曲の物語性に思わずチョイチョイチョイチョイ〜となった。

 

 

リコリス・リコイル』感想はこちら

kuh-10.hatenablog.com

 

以上、2022年楽曲10選でした。

今年の再生楽曲はかなり偏りがあったので、来年はもう少し幅を広げていこう。(定期)

 

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私的2022年映画ランキング:ベスト10

年末です。ベストを決める時期です。やっていきましょう。

 

今年は仕事が多忙を極めまして、映画業界へのアンテナが低かったこともあり、鑑賞本数も少なくなってしまいました。ただ、前情報だけで琴線に触れるような作品自体が減った感覚があって、コロナ禍で撮影や公開が延期になった狭間の時期だというのも関係しているのかなという気がしています。

なので結果的に王道エンタメ作品の鑑賞割合が多くなりました。観たい作品もまだありますしかなりにわか感のあるラインナップになったので現時点でまとめることには多少抵抗はありますが、やはり形に残しておきたいなということで、ベスト10で選んでいきます。

 

おととしはベスト30、昨年はベスト20でやっていたので、ベストに入れられるほどの作品を観るだけの余裕がどんどんなくなっているのが顕著ですが…。

そんなわけでどうぞ。

 

 

▼私的2021年映画ランキング:ベスト20はこちら

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  10位『シン・ウルトラマン

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巨大不明生物が次々と出現し、政府は禍威獣特設対策室・通称「禍特対」を立ち上げるもいよいよ打つ手がなくなる日本。しかし、人類の存亡が危ぶまれる中で1体の銀色の巨人が現れる。

 

歴史あるシリーズへの目配せをしながら散りばめられているであろう小ネタやオマージュの数々は、元ネタを知らずとも何かを察し思わず口角が上がってしまいます。

時代の流れで過去作品と本作との描き方や捉え方も移り変わる部分はあるでしょうけど、根っこにある作品へのリスペクトを感じられたのが何より良かったです。

 

 

 

  9位『劇場版 Free!-the Final Stroke- 後編』

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世界に向かって羽ばたいていく競泳選手達はそれぞれの課題に向き合いながらも、中にはもがき苦しむ者もいた。自分はなぜ泳ぎ、どこに辿り着きたいのか。放送から9年に渡り描かれたシリーズ完結作。

 

とにかくシリーズを支えたファンへの感謝を感じさせる作品だったと思います。それだけに、強引さのある筋書きはもったいなくもありましたが、キャラクターそれぞれにきちんとスポットライトを当て、気配りあるシーンの数々には有り難さが募ります。時には観客への想像に任せる演出も憎い。

たくさんのリスペクトが詰まった作品に仕上がっていたことは間違いなく、ゆえにシリーズへの向き合い方で評価の変わる1本だと感じました。

 

 

 

  8位『モービウス』

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血液の難病を治療するために自らの身体にコウモリの血清を投与した天才医師。病気が回復する目覚ましい結果となる一方で身体には変化が現れ、やがて血液を欲するようになる。

 

全体を通してストーリーのテンポがとにかく良く、ホラー演出も光って序盤の見せ場から一気に引き込んでくれました。モービウスの野生的なビジュアルもとても良かったですし、劇場での暗い空間と相まって恐怖心を煽られるのも没入感に繋がりました。

ただ、この作品は予告編で少し見せすぎましたね。初見であれば思わず拳を握ってしまいそうなシーンやセリフが予告編で既に流れていたので、サプライズは少なかったように感じます。とはいえ、今後の展開は楽しみです。

 

 

 

  7位『ドクター・ストレンジマルチバース・オブ・マッドネス』

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新たな脅威が迫り、謎に満ちたマルチバースの扉を開くこととなる最強の魔術師。宇宙の運命は再び彼の手に託される。

 

これまでのMCUとは少し違ったテイストで描かれる本作は、音・水・色などを巧みに操り世界観が壮大に表現されていました。テンポが良い反面どうしても説明不足な点も感じつつ、しかしそれ以上に演出やキャラクターの対比構成が上手く、思わず前のめりになってしまう1作品でしたね。

 

上映があっという間に感じられる没入感とそれ相応のカタルシスがしっかりあり、それでいてホラー作品のような胸の高鳴りもあって、単なる筋書き以外に面白みを感じられる映画でした。

 

 

 

  6位『THE FIRST SLAM DANK』

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バスケット漫画の金字塔『スラムダンク』が原作者である井上先生を監督・脚本に据えて帰ってくる。

 

モーションキャプチャーやCGを用いての試合描写はその場にいるかのような凄まじい臨場感を与え、試合結果は知っているのに手に汗握ってしまいました。試合展開に呼応するように回想を重ねラストに熱さを帯びさせる流れは胸にグッとくるものがありました。

クオリティーは申し分ないと思うので、あとは『SLAM DANK』への感情の強さで評価の振り幅が出てくるのではないでしょうか。

 

 

 

  5位『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

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地球から遥か彼方の惑星。先住民と人類の戦いから10年が経ち、世界には平和が戻っていた。だがそこには新たな脅威が迫り、森を終われた家族は海の部族に助けを求める。

 

映画界に革命を起こしたとも言える前作。近年、CG技術はどんどん向上してはいますが、やはり『アバター』という作品の繰り出す映像美は他の作品と一線を画しています。なんというか、圧倒的です。

ストーリーも各登場人物にスポットを当てながらいくつものテーマ性を持った描写が重なるので、ベタな展開ながらしっかりと面白いんですよ。長尺ながら間延びせず、しっかりとまとまっている。このへんはやはり監督の手腕じゃないですかね。

 

 

 

  4位『コーダ あいのうた』

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耳が不自由な家族の中で唯一耳が聴こえる女子高生が合唱部への入部したことをきっかけに顧問の教師に歌の才能を見い出される。名門音楽大学への受験を勧められる彼女だったが家族の理解を得られず、夢と現実の狭間で葛藤を重ねていく。

 

音のある世界とそうでない世界をメリハリを持って演出されており、またドラマとコメディのバランスの良さが凄まじかったです。切なくも笑いもあり、観終わった後に胸にじんわりと温もりが残るそんなしっとりとした作品でした。

 

 

 

  3位『すずめの戸締まり』

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災いを呼ぶ後ろ戸を締めるため、偶然出会った少女と青年が全国を巡り「閉じ師」としての役目を果たしていく。

 

この作品、物語の導入にスピード感があるので引き込まれたらあとは鑑賞する側の好き嫌いだけなんだろうなと思います。緩急がついているのでだれることがなく、また所々で目頭が熱くなるシーンやセリフも散りばめられていて終始見入ってしまいました。

 

何気ない日常の愛おしさや尊さを上映時間いっぱいに教えてくれるメッセージ性とエンターテインメント作品としてのバランスの良さが際立った1本。
あくまでも震災の被害が大きくなかった側の感想なので、そうでない人からすると手放しで褒められるものではないかもしれませんが、それをふまえて制作に至った覚悟は感じます。

 

 

 

  2位『トップガン マーヴェリック』

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選ばれしパイロットの手腕を持ってしても不可能に近いミッションを遂行するため、伝説のパイロットが教官として戻ってくる。型破りな教官と訓練生らは反発しながらも国のために空を飛ぶ。

 

前作へのリスペクトがとにかく凄い。しかしそういった部分にあぐらをかくことも決してなく、シャープな本筋の中でも感情を揺さぶってくるんですよね。

30年以上を経て続編を撮ることに思うところもあったんですけど、今だからこそ製作に踏み込んだのだと納得のいく1作でした。年が違えば間違いなくベスト映画でしょうね。

 

 

 

  1位『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』

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スパイダーマンとしての正体を暴かれ日常が一転してしまったピーター・パーカー。その影響でマルチバースの扉が開かれ、このユニバースに脅威が迫ることとなる。

 

これぞ究極のファンムービーと言ってしまって良いのではないかというサービスの数々に感涙。長尺を感じさせず、ストーリーの展開と共に劇場が泣き笑い、時にはハッと息を飲む雰囲気も至高の映画体験でした。

2022年の映画は本作に始まり、ベストになりそうだという予感はありましたがそのまま堂々の第1位です。今年1番観た映画じゃないかな。

 

 

以上、2022年映画ランキングベスト10でした。

1位の『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』は過去のシリーズやMCU作品群の流れを組みつつの本作だったので、評価軸でいけばまた変わる部分もありますが、「好き」にフォーカスすればダントツだったように思います。これだけのファンムービーを目の当たりにできたこと、嬉しい限りです。

他にも、観たいけどまだ観られていない作品もいくつかあるので徐々に触れていくつもりです。

 

来年も素敵な作品に出会えることを願って。

 

 

澁谷かのんの主人公性と夢の先

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

12話をもってアニメ第2期の放送を終えた『ラブライブ!スーパースター!!』。

スポ根的な熱を帯びながらも次のステップへと進んだ本作は1期と2期で大きく変わった点として1年生の加入が挙げられるが、同時に澁谷かのんのカリスマ性がとにかく炸裂していた。

 

昨年放送された第1期で描かれたのは、5人の少女達がそれぞれ抱える苦悩や葛藤を乗り越えてスクールアイドル「Liella!」として結ばれていく等身大の姿だった。出来ないことと向き合う怖さ、続けていても報われない辛さや苦しさ…。

 

かつての澁谷かのんにとって「歌うこと」と「歌えないこと」は、真逆の意味合いを持ちながらも確かな現実として彼女に重くのしかかっていた。

外の世界をシャットアウトするためのアイテムもまた、音楽を聴くためのヘッドホン。結局のところ彼女は音楽との接点を断てずにいたわけだ。これはもう仕方ないことなのである。澁谷かのんという少女は歌が好きなのだから。

 

そんなかのんの歌に魅せられた可可。かのんを暗い世界から引き上げたのも逃避の道具として機能するはずだったヘッドホンから流れる音楽であり、彼女らのこれから着実に色味を帯びていく。

 

そう、第1期の特に前半に関して言えば、いかにも主人公らしい快活さで物語を目まぐるしく動かしていたのは上海から海を渡ってきた少女だ。

彼女は澁谷かのんという女の子が殻を破らんとするまでの原動力として、物語の始まりを告げる役割を担う。好きと言う気持ちとリスペクトの念だけで単身海外へと身を投じる強さというのはもはや主人公のそれである。

 

一方のかのんは自分に落胆し周囲の失望に目を伏せる、感情が表に出やすい少女だと言える。物語の序盤では分かりやすく可可とかのんの2人が明暗の対比として描かれていた。

 

だが、ヘッドホンで殻にこもろうとも、周りを放っておけないのが澁谷かのんである。やりたいことをやれない悔しみを抱える人の声も、自分を求める人の叫びも、完全には遮断できない心の芯が確かにある少女なのだ。ましてや、それが誰かの夢へと繋がることであれば尚更。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

かつて周囲の期待を受けて臨んだ場所で味わった挫折を経ても尚、夢に飛び込みたいと願い続けたこそのスクールアイドルという道。澁谷かのん達Liella!は進級し、後輩を持つ立場となった。

新設校であるため先輩という存在がいなかった2年生。1年生が2年生に追いつこうと食らいついていく姿と同時に、2年生が1年生を導く上での苦悩も描いていく。2年生の手探り感も第1期を経てのラブライブ!優勝への意識と並行して高まっているのが非常に良い。千砂都が部長として皆を引っ張っていくところだったり可可が自らの練習メニューを元に後輩の背中を押すところだったり。そこには器用さはあまり見られないのだけれど、それでこそ学生の青春だと思える。

 

そして先輩らとは対照的に運動も苦手ながらLiella!とラブライブ!に魅せられ入部を決めたきな子が2年生の不器用な面を引き出している印象を受ける。きな子はスクールアイドルとしての実力の面において至らない自分を変えたいと思い努力できる強さがある。健気にまっすぐに、少しずつだけど着実に、彼女は実力をつけ先輩に追いつこうともがいている。環境や他人を責めずにひたすらに努力を積み重ねることができるきな子のそれは、確かに1年生の主人公なのだ。

だからこそそれを感じ取れるかのんはきな子を導いていくし共に歩みたいと思う。そこに共感した他の2年生も一緒になって手を伸ばす。先輩として時には間違えながらも自分達で部を形成していく。それが素敵だ。

 

澁谷かのんという女の子には「感動を伝えたい」という想いが根本にあって、自分の見ている世界を後輩に魅せたいからこそ歩み寄ったのが第2期の始まりだった。そんな強い引力によってきな子は確かに惹かれ、1人またひとりと仲間が増えていく。

かのんのエゴイスティックとも言えてしまう想いに人が集まるのは彼女のカリスマ性であり素質的な部分だ。しかしながらそこに必要以上の上下関係を形成せずに“共に歩んでいく”ことは「先輩禁止!」のラブライブ!シリーズならではの関係値をしっかりと引き継いでいる点においても上手い。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

部活動の側面における、実力者のみが戦いの場に身を置くことの是非。「それはスクールアイドルじゃない」という素直な心境に対し「じゃあ何がスクールアイドルなの?」という問いかけは当然生まれる。だが、Liella!が9人体制として立っていくためにはこの原点には立ち返る必要があった。

現時点で5人の方が高いパフォーマンス力を発揮できる現実を受け入れつつも、そこに4人が増える意味を見出さなければ作品として説得力が欠ける。今は何も出来ないけれど、いつかは追いつきたいという本気の熱量を、これまた凄まじい熱量を持つかのんが見出していく。

 

だからこそ、ずっと物語を進める意味で正解を掴んできたかのんが、すみれが悪役を買ったあの時には見えていないものがあったのは大変良かった。あれは可可とすみれ2人だけの秘密であり、いくらかのんと言えど分かりえない領域だった。ゆえに屋上でかのんが拳を握った時に、久しぶりに彼女がただの高校生に戻った姿を見られた気がして嬉しかった。

 

平安名すみれという仲間を本気で信じているからこそ彼女の芝居に表面的なものしか見い出せないやるせなさもあっただろう。第2期のかのんはどうしても無敵感が強く描かれていたが、やはり人間臭さも見たいのだ。(ビンタしちゃったらまた違った葛藤が物語を動かしちゃうからね…。)

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

そしてLiella!を揺るがすウィーン・マルガレーテという新星。彼女が常に上に立っていなければ気が済まないのは勝利と実力至上主義であるがゆえであり、孤高の黒鳥としてステージに佇む姿はLiella!とは相対するそれだ。

でも、だからこそLiella!は“9人で”ウィーンに勝つ必要がある。辛くても助け合い全員で楽しく進むのがLiella!としての歩むべき道だと認識をすり合わせたから、真逆のウィーンには負けてはならない。

優勝候補として持ち上げられ、でも勝ったことのないLiella!。世間体とは異なる、実はチャレンジャーであるLiella!をウィーンは暴いていく。

 

とはいえ昨冬の敗北からかのんは人一倍勝利に貪欲になった。生活リズムから、練習の姿勢から、日々の表情から、それは明らかに変化している。

ウィーンとの初対決はきな子を含めた6人での初陣でもあったが、ここでも負けを喫することとなった。だが、その負けを個人の敗北で終わらせないかのん。彼女の勝利への執念の強さはここでも出てくる。

学校のみんなや家族を含めスクールアイドルとしての結果がもたらすものをかのんはきちんと気にすることができるようになった。勝利も敗北も一緒に喜び悔しんでくれる人がいることをかのんは知っている。Liella!は自分達のスクールアイドル活動が誰かの糧や力になると知ったから、ラブライブ!にこだわるのだ。圧巻のパフォーマンスで人々を従えていくウィーンのそれは、Liella!の出した答えではない。

そうしてウィーンとの接触を繰り返していくわけだが、敵として向かい合う相手にすら彼女が何故そこに辿り着いてしまったのかと知ろうと迫る姿は、やはり澁谷かのんのらしさが詰まっていた。そこに対して交わす言葉を頼りに心に踏み込んで「真実の歌」に悩むのもまた、情熱で仲間を引っ張るかのんの優しさである。

 

澁谷かのんはストイックであると同時に同じくらい自虐的でもある。それは自分の立ち位置をきちんと理解できているからでもあり、他人に対しての優しさにも直結している。後輩を引き込む時もまさにそうだが、かのんには誰かの現状を当人よりも理解し問題解決に一役買おうという気質が備わっている。そしてそのためらいのなさはかつてスクールアイドルの勧誘に走り回る可可をかのん自身が遠ざけていたものである。Liella!としての1年がかのんの輝きを取り戻してくれたことに他ならないのだ。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

かのんがこれまで引き入れた子達にかけた言葉は全て本気で言っていて、そしてLiella!をスクールアイドルの頂点に連れていくことで夢を見せた責任を果たし叶えようとしている。澁谷かのんが澁谷かのんたる所以である。

更にそこに至るまでの熱量や行動力は彼女が情熱的な主人公であることを教えてくれる。かのんは答えを見つけたらとにかく突っ走って手を伸ばしてくる。それは誰にでも出来ることではなくて、でもかのんはどこか無意識的にやってけるのだ。その情熱が悩める自分に向いてくるのだからLiella!の面々はどうしたって惹かれていく。“わたし”の物語をかのんに導かれ“みんな”の物語にしてしまう。見つけた答えに突き進み周りを巻き込んでしまう澁谷かのんの天性はまさにアイドルど真ん中と言える。

 

そうした“わたし”と“みんな”の物語はやがてかのん自身に向いていく。突如飛び出してきた留学の話。Liella!のみんなと一緒にいたい気持ちと世界で歌を響かせたい願いが生む葛藤が消えないが、その背中を大切な幼馴染が押す。

自分の気持ちに嘘をついたままスクールアイドルとしての活動をするのはかのんがかのんでなくなってしまうので留学をするもしないも自由なのだが、そこに彼女がきちんとした理由を提示してくれれば良い。12話のラストについては今後明かされていくので今は言及しないが、かのんの決意を絶対に無駄にはしないでもらいたいと願うばかりだ。

 

結局のところ『ラブライブ!スーパースター!!』において主人公が澁谷かのんであるのは、それぞれのキャラクターが辿り着くべき答えを見つけられる直感と、そこに至る道をまっすぐ走ることの出来る強さと優しさが彼女に備わっているからだと思う。その背中に続いてLiella!の道が出来るから、メンバーは安心して着いていける。

彼女の引力は確かに強力で、でも強引に引っ張ることのない思いやりも兼ね備えているから、澁谷かのんに惹かれる。物語にも納得感が生まれる。本主人公が持つオレンジという色合いが持つ勇ましさや暖かさは澁谷かのんの象徴だ。

 

世界中の人に歌を響かせたいという彼女の願いはきっとスクールアイドルを始めたあの時から少しずつ動き始めている。上海からやってきた少女に手を引かれ、幼馴染に寄り添われ、彼女なりの理由を見つけてその道を歩み始めた勇気と情熱こそが可能性を広げていく。青春全てを注いで目標としてきたラブライブ!優勝を果たした今、澁谷かのんは自分のこれからの世界に何を見るのか。実に楽しみだ。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

 

 

『リコリス・リコイル』感想/少女達に寄せる期待と返される納得感

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(C)Spider Lily/アニプレックスABCアニメーションBS11


好きな作品は数あれど、好むコンテンツの前提条件として「キャラクターが魅力的であること、あるいは魅力的に描けていること」は最重要だと言ってもいい。

それはキャラクターのビジュアルが良いとか演出が映えるとか、そう言った点のみではクリアにならない。好きだと感じることにしっかりとした納得感を持って作品を駆け抜けられるか、それが大切だ。

そういった意味では『リコリス・リコイル』の「キャラクターの魅力」は終始飛び抜けていたように思うし巧さが光っていた。

 

犯罪者やテロリストがはびこるどうしようもない治安を、リコリスと呼ばれる少女達が維持しているこれまたどうしようもない東京。殺して黙らせるという腐った概念が許されているリコリスの日常は生と死の狭間である。

そして壊れてもなお佇む塔が綺麗に彩られている様もまた、腐った世の中を皮肉っているようで面白い。先が見えないオリジナルアニメにおいて、冒頭から背景描写で魅せにかかってくる。制服を着た少女に銃を握らせ戦わせる作品は珍しくはないけれど、こういった描き方の配慮もポイントが高い。

 

リコリス・リコイル』が描く少女達は分かりやすく可愛らしい。作中はもちろん、OPやEDのキャラクターの表情や仕草、制服や私服といったビジュアルも制作陣の細かいこだわりが見える。大前提として可愛さを追求をしている作品であることはすぐに感じ取れる。

そんな可愛い少女達が銃を手に平和を守っていると言えば聞こえはいいが、実際にDAが行っているのは戸籍のない孤児を集めて暗殺者として仕立て上げ、日本の日常において裏から守護る番人を置くというもの。

年相応の少女を描こうとする中で銃を持たせ人を殺させているという歪さは本作品の癖を匂わせるには十分なはずだ。そして真島によって投げかけられる、そんな平和が許されていいのかという問い。無論、良くはないのだ。この問いに対して少女はどのように向き合い戦いに身を投じていくのか…様々な要素を散りばめながらも大枠は王道を外さない大胆さも清々しい。

 

 

本作は、裏の世界に目をやると背筋が凍りそうな日常と不釣り合いなほどに脱力感すら感じられる千束と、まるで規律に則した兵隊のような質感すら覚えるたきなのバディ作品だ。凸凹だからこそ互いに惹かれていくうちに足りない部分を補い合っていく。

それだけ聞くとよくある設定なのかもしれない。が、ここの深堀りによる高揚感が凄まじく、作品に対して前のめりになってしまう。良いものを創ろうとするクリエイターの気概を作品を通してひしひしと感じ、信頼感に繋がっていく。それは同時に期待感にもなっていくわけだが、毎週毎週しっかりとその期待を信頼という形で返してくれる。1人の消費者としてこの信頼関係の構築が出来ることは幸福なことだ。

 

アクションのみならず日常の1コマすら程よくスピード感を持たせているのは没入感を与える上でも大切なことだ。それでいて各々の言動でキャラクター説明を語りかけてくるのが本作の上手さの1つだと言える。

例えば1話の護衛任務がまさにそうで、コミュニケーションを円滑に進めながらもきちんと仕事をこなす千束に対し、たきなは護衛対象すら囮にしてしまう暴力的な面を覗かせる。作品の始まりとして限られた時間の中、セリフではなく言動で主役の位置づけを説明させ、2人の女の子がどういう子なのかという点を端的かつ明快にしていく。この反対の位置にいると言って差し支えない2人がどのように距離を縮めていくのかという、作品の輪郭を明確にしていた。

 

さらにはストーリーの一環として描かれるシーンでも、その時点ではまだ描かれていないキャラクターの背景や過去の出来事を匂わせてくる。しかしながら押しつけがましさはまるでなく、「何か裏があるのか?」と察する程度に留めてくれるので、いざその描写があると納得感に直結する。

世界観も伝わるしキャラ設定を裏打ちして物語としてもキャラクターとしてもグッと身近に感じられるわけだ。これらの意図的な描き方が実に上手く、思わず口角が上がってしまうことが多々あった。

 

演出的な上手さは要所に光るが、中でも物語を通して描かれるたきなの変化が大変良かった。個人的にはとにかくここが刺さったことが本作品にのめり込めた要因だと感じる。

容赦なく殺人を実行するDAに所属しその手段に疑念を持たないたきなはチームから外されてもなお復帰を願っていた。これは人を殺す殺さないの話以前に、DAの価値観しか知らないたきなからすれば当然である。親なき少女はその檻の中での生き方が刷り込まれているのだから。

 

一方の千束はというと、その類まれなる能力を持ってしても決して人を殺めない誓いを立てている。その信条に揺るぎはなく、むしろ殺さないことでないと自身の役目(あるいは吉松への願い)を果たせないとすら感じている。自分の命を取りに来ている連中に手当をすることすら厭わない。

DAからリコリコへと身を移したことでどんどんと今の千束の造形へと変わっていったのだろう。そこにはミカやミズキ、リコリコの常連客といった人々によって形成されてきたものだ。親なき子の手を引く存在がいるから不殺の誓いを全うするだけの心の強さを維持している。

 

そして千束との対比として挙げられる、たきなの元相棒のフキ。彼女は始めこそ嫌味な奴という描かれ方をしていたけれど、まさにDAの価値観を体現している少女だと言える。命令には服従し、そこに個人の意思はない。絵に書いたようなリコリス

そんなフキを実力行使で黙らせにかかる千束に感じるものがあったことで、たきなの心情に変化が生まれていく。他のリコリス同様に兵器として育てられたたきなが人間らしい暑苦しさを覚えて心の氷がとけていくような優しみがある流れは王道ながら美しい。

一足先にDAという檻から出ている千束がたきなを快活に導き、救済していく。それも強制的にではなく、千束の人間的な温かみとそこに手を取るたきながあってこそだ。無機質なたきなを誘ってくれる少女の心臓が機械なのも、作品の奥行きが感じられる。

 

千束のキャラクター設定も非常に絶妙で、無敵感がありながらも適度に抜けており、そのふんわりした部分すらも含みがあるように受け取れる。たきなはそんな千束の人柄に惹かれていくわけだが、千束の良さが十分に感じられるので2人の距離の縮め方にもしっかりと納得感がある。幼少期から殺伐とした世界を生きるリコリスにとって、こういう人が隣にいることのありがたさはひとしおなのだろう。

千束に比べ少々アニメ作品として特徴の薄めなキャラデザであるたきなが徐々に魅力を増していくのは、こういった“変化”が顕著だからだと捉えている。コミカルに描かれる水族館でのチンアナゴも、千束やたきなのパンツ騒動も、リコリコでのうんこスイーツも、世界の闇が濃すぎるがゆえに朗らかな日常描写は実に優しいし、その何気ない日々を美しく思える。その見せ方が出来てしまうのは作品として大変優秀すぎるわけで、本当に頭が下がる。

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(C)Spider Lily/アニプレックスABCアニメーションBS11


無惨にも散っていったリコリス達は、千束やたきなの明日の姿かもしれない。そんな死と隣り合わせの世界だから、日常の何気ないやりとりがどうしようもなく幸せで儚いものに描かれる。何人もの名も無きキャラクター達が命を落とす作品にこういった明暗を強く植え付けるのは大切なことだ。

そして、彼女らの日常が幸せだからその裏で蠢く陰謀に我々はヒヤリとする。永遠であってほしいと願うその日々を邪魔する者達とそれを阻止しようと戦いに身を投じる少女からは目を逸らせない。作品の引力がキャラクター・ストーリーどちらにも起因しているのは脚本も演出も含めたスタッフ陣の配慮があってこそだ。それはもう面白くないわけがない。

 

丁寧に積み重ねられた千束の人格描写は、憧れの対象を目の前にすると途端に崩れ年相応の女の子の顔を覗かせた。「殺したくない」という千束の願いはこと東京においては代償を伴うという現実がここにきて叩きつけられる。リコリスとして延命している以上は「殺さないこと」はそれ相応のリスクが同居する。彼女の溢れる才能と引力の強い人格と、そして時折見せる脆さは、彼岸花に覆い隠されながらもテロリストによって剥がされていく。

 

そんな千束に徐々に懐いていき信頼しているたきなの姿は微笑ましくもあり、敵との開戦が目前に控えていくにつれて怖さもあった。たきなが千束に体重をかければかけるほど、その脆さが仇となってしまった時の危うさが浮き彫りになるからである。

事実、千束の心臓を奪われた時のたきなはまた任務遂行のために手段を選ばない獣となった。それはミカやミズキやクルミらと過ごすリコリコでの日常において潜めていた姿…というよりも見せる必要のなかった姿であった。

だが、たきなはもうDAが自分にとっての唯一の故郷ではないことを理解している。大切なのは場所ではなく人であり、それを教えてくれた千束の命を優先した彼女の何よりも強い願いなのだから止める術はない。たきなは死と隣り合わせの最前線ではなく、偽物の平穏に生きる人々との触れ合いを選んだ。それはDAの命令に従う機械ではなく人と交わることでしか得られない感情をリコリコで知ることができたからであり、手を引いてくれた千束への恩返しなのだ。

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(C)Spider Lily/アニプレックスABCアニメーションBS11


千束が自分を殺しの道具ではなく誰かを愛せる存在であることを認識し、人を生かして未来を探していく。世界の平和とそのための吉松の歪んだ祈りが宿った銃を、残酷な告白を受けてもなお千束はそれを彼に返しに行った。その決意は錦木千束という女の子の生き方を試されるものであったし、同時にこれからの道筋を明らかにするものでもあった。

この一連の流れは千束と吉松・吉松とミカ・ミカと千束の関係性を一気に清算しにかかる、非常に重厚な描かれ方だった。結局のところ救いの手を差し伸べてくれた吉松に対して千束とミカが救世主越えをするに至るわけだけれど、根っこの部分には恩人/恋人を制しにいく人間ドラマが深く根付いている。そしてミカという父親に授けられた不殺の銃をもう1人の父親である吉松に奪われるばかりでなく友人の命を天秤に乗せられ、それでも人を殺さないのかと問われる信念。戦闘の才はあれどやはり殺しの才能には恵まれていないことがはっきりとした時点で、千束の中にある父親の偉大さが吉松本人にとって不測のものだった人間らしさが愛おしい。

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(C)Spider Lily/アニプレックスABCアニメーションBS11


東京を離れフクロウとも別れを告げる千束。自分を支えてくれたフクロウを不要だと悟る千束はまたひとつ強くなった。

それでも、爆薬で社会を揺らし銃を撒き散らす真島とはまたいずれ相見えることだろう。彼が暴いた社会の不均衡は妙な納得感はあれど、不殺の銃を握る少女はやはりそれを許さない。千束をいつでも殺せる立場の真島もその対峙を楽しんでいるわけで、結局どこかで引かれてしまうことは想像に容易い。生きるか死ぬかのせめぎ合いで休憩を挟みジュースを回し飲みする、それはもう互いにしか分からない関係性なのだ。

千束とたきなが選んだのは、殺すことはせず殺されることもせず愛し愛される人間的なことだ。確かに千束のこれからを望んだたきなは殺しを実行しようとした。けれど、千束本人がそれを望まず塞き止める。リコリコでの日常が命を奪う愚かさを教えてくれたのだ。その汚れ役をミカが涙ながらに引き受けるところにも父親としての優しさが溢れている。

 

銃弾を受けることのない千束を拘束銃が当てられるようになったたきな。銃を扱う作品において2人の関係性の動向が美しい着地をし、そして今後を見据えていく。

大人の敷いたレールの上を進むのではなく、それらに屈せず前を向く少女達のこれからの可能性を見出してくれた『リコイル・リコイル』。社会に撒かれた銃がまだ全て回収されていなくとも、これまで人を救うことが使命だと感じていた千束は自分のやりたかったことを優先してハワイを旅する。

この作品が描きたかったことは、そういうことなのだ。シャープで丁寧な描写を積み重ねてきたことで生まれる納得感。それをまたどこかで見られることを期待して、今は終わりたい。

映画『五等分の花嫁』感想/描かれる「五つ子の呪縛」からの解放

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(c)春場ねぎ・講談社/映画「五等分の花嫁」製作委員会

 

五つ子であることは、それが恋敵となるや否や「呪縛」になる。

映画『五等分の花嫁』の公開にあたり本作をアニメにて履修したのだけれど、話数を重ねる度にそう思わざるを得なかった。

 

学年1位の学力を誇る主人公の風太郎が落第寸前の五つ子の家庭教師となり勉強を教えていく中で生まれるラブストーリーを描く本作。原作コミックの人気は承知しており、最終話の展開を巡りSNSでは様々な考察や論争が巻き起こっていたことも横目に見ていた。

 

本作は要所で風太郎とヒロインの結婚式のシーンが描かれている。ポイントはそのヒロインが誰なのかが分からないということだ。つまり我々は、「五つ子のうちの誰が風太郎と結婚するのか」という視点を持ち合わせながら作品に触れていくこととなる。

誰がどのタイミングで恋心を抱くのだろう…このシーンが後々の結婚へと繋がるのではないだろうか…そんなことを考えながら、ある種のミステリードラマを見ているような感覚にも陥るわけだ。

 

五つ子は髪型や身に付けるアイテムは違えどそっくりな見た目をしており、結婚式のほんのワンシーンを切り取った程度では花嫁が誰なのか判別ができず、だからこそキャラクターの一挙手一投足に自然と目を凝らしていく。本作は王道のラブコメ路線を突き進みながらも、設定を上手く利用し没入させるだけの巧みさも合わせ持つ。

 

また、五つ子のバラバラな個性は我々にとってのいわゆる「推し」を作る上で重要なキャラクター設計になっている。恋愛モノにおいて、ヒロインの魅力は非常に大切なポイントだ。

どれほどストーリーが秀逸だろうがキャラクターが魅力的でなければそれは物語を動かすための舞台装置にしかならない。主人公とヒロインが結ばれた時の納得感を含んでいないと、それまで積み上げてきた数々のストーリーも無に帰す。

我々は自分にとっての特別なキャラクターがいれば没入感がグッと増し、感情移入を増長させるだろう。実際、友人などと『五等分の花嫁』の話題になった時には真っ先に「五つ子の中で誰が好きなのか」という話にならないだろうか。それはそれぞれのキャラクターに個性があり、魅力がきちんと五等分されている証拠とも言えよう。

 

そんな設定の上手さも持ちつつ、五等分されているのが姉妹の学力にも当てはまるというのが更なる肝の部分だ。勉強が苦手な五姉妹にもそれぞれ得意科目があり、五教科全てを合わせることで一人前の能力になる。逆に言えば、その時点で五つ子は一人前とは言えない存在だと言えるわけである。

 

そのような中で、テストで満点を取る風太郎は自ら収入を得て家計を支える大人、つまり一人前の存在として描かれる。

一方の五つ子は父親のおかげで何不自由なく裕福な生活を送り「5人合わせて100点」をとる未成熟な立場だ。社会的にも人間的にも発展途上な五つ子は風太郎との対比を見せながらもやがてアパートを借り各々が自立していく姿を見せていく。かつては「5人合わせて100点」だった五つ子が一人前になっていく中で「1人で100点」をとれる風太郎に好意を抱くという移り変わりは、少女達が大人の女性としての成長を窺わせる構図となっていて非常に上手い。『五等分の花嫁』は様々な設定を過不足なく活かしている計算高さが実に小気味よいのだ。

 

だが、姉妹の魅力さえもしっかりと五等分されている一方で、「五つ子であるということ」は一花・二乃・三玖・四葉・五月にとって呪縛ともなっていた。

 

アニメ『五等分の花嫁』1期の最終話の時点では、比較的早い段階で風太郎への好意を自覚した三玖に次いで一花と二乃もその胸に恋心を抱くようになった。最初は自分の感情に戸惑いを覚えながらも、3人は自身の膨らむ想いと向き合って行動するようになっていく。風太郎との距離を詰めていく過程で、3人は互いの気持ちを察し、時には自白し、そして徐々にヒートアップしていく。

 

姉妹だからこそ、恋敵の心理が分かってしまう。距離が近いからこそ、物事をはっきり言うことも、逆に1歩を踏み出せなくもなる。顔が似ているからこそ、時には姑息な手段に出ることもある。

そうして繰り広げられていくシスターズウォーでは、恋敵が姉妹であるという「五つ子の呪縛」に雁字搦めになっていく。相手が共に育った姉妹であるがゆえに五つ子の言動は個性が出てくるわけであり、僕達はそこから目が離せなくなるのだろう。

先に述べた「五つ子の呪縛」を自覚しているのは一花・ニ乃・三玖であり、アニメ2期『五等分の花嫁∬』が終了した段階では四葉と五月にはあまりその気がないように描かれる。(五月には多少そのような描写はあれど、3人のように自覚的なセリフなどはない。)

四葉に至っては自分よりも他人を尊重するがあまり自身のやりたいことや欲しいものが分からない始末。だが作品の描かれ方としては零奈としての京都での出会いや林間学校で風太郎の薬指を握るシーンなど四葉がその道をいく伏線もあるわけで、やはり劇場版を前にした段階ではほぼ横一線のように思えた。

 

どこまでが真実でどこまでがミスリードなのかという点もあれど、選ばれるのは1人。残りの4人はどのように立ち回り自身の気持ちと決着をつけるのだろうとそわそわしながらチケットを握り締めて席に着いた僕は、再三述べている作品の旨さを改めて感じた。

失恋をした4人への納得感と僕達への説得力をいかに持たせていくかという部分もなかなかに難しくあるのではないかと思っていたのだが、なるほどこの着地である。

 

風太郎が恋をした相手は四葉だった。正直なところ、他4人への想いだって同じくらい強かったように思える。だからこそ描き方としては風太郎の想いが確信に変わることを直接的にするのではなく、京都での出会いや四葉四葉たる所以といった要素を“運命的に”描写したように感じた。

そこに至るために五つ子はおおよそ辛い出来事に直面するだろうし、作品としては5人全員が笑ってエンディングを迎えられる設計が求められた。

そしてそれは四葉が覚悟を持って向き合い、一花・二乃・三玖・五月それぞれが受け入れるだけの想いと時間を経て決着する。

 

他の4人とキャラクター造形が異なるように思えた四葉は、恋のライバル以前に家族として生きていく上で幼少の頃から既に五つ子の枷を感じていた。だからこそ彼女は京都での出来事を胸に、4人とは違った視点と価値観を持って歳を重ねていく。結果としてその言動が五つ子の転校へと発展させるわけだが、それが「お嫁さん」という夢の第一歩となるのだから、思わず膝を打ってしまった。

風太郎の言葉に対して四葉が考えあぐねて即答しなかったのがエンディングにしっかりと納得感を与え、他の4人にもその配慮がされている。そして何より、四葉風太郎とこれからの人生を共に歩んでいくことに対する重みを感じさせるだけの尺がこの映画には必要だった。その上で136分という長尺ですらやや急ぎ足の部分はあったものの納得感を含ませる上では十分まとまった印象だ。

 

京都の約束が互いを引き合わせ、四葉に至ってはそれが人格すら変えさせたわけだが、そんな姿に風太郎は惹かれていく。四葉本人が負い目に感じていたことも全てが結ばれるために必要だったことなのだろう。

 

本作のラストは風太郎と四葉の決断から5年後の結婚式が描かれる。

この5年間、風太郎と五つ子は一体どのような時間を過ごしていたのだろう。特に、五つ子。女優として日の目を浴びる一花は、自身の気持ちに実直に突き進んだ二乃は、恋から将来やりたいことを見つけた三玖は、大好きな母と同じ道を自分の意思で目指した五月は。そして自分に少し正直になった四葉は。文化祭の後それぞれの恋心とどう向き合ったのだろうか。

それらは映画では描かれなかったけれど、きっと涙した女の子だっていたことだろう。恋した異性の好きな人が自分の姉妹であるがゆえに渦巻く悔しさや羨みといった感情だって生まれたに違いない。

それでも各々が風太郎ときちんと向き合い、自身の気持ちにけじめをつけて、また道を歩み出す強さが五つ子にはあった。もうかつてのように学力すら五等分の未熟な女の子ではない。夢に向かって歩いて行ける存在になり、恋をした/恋に敗れたって自分達の力で「五つ子の呪縛」から解放されたのだ。

それを助けた風太郎は家庭教師として、1人の男として、五つ子を導いた。そして彼自身、「5人の中で自分と人生を歩む相手は誰なのか」という“難問”を解き明かしたわけだ。

 

これだけ積み上げられた関係性があれば、きっと五つ子は幸せだろう。四葉を祝福できる4人にだって溢れんばかりの愛を注げる人を見つけてほしいと切に願わずにはいられない。

そして胸の秘めごとを隠しながら生活してきた四葉がそのままの状態にならなかったことにとにかく安堵している。彼女には今後もやりたいことはやりたい、やりたくないことはやりたくないとハッキリ言える女性になってほしい。それが出来たのが告白に対して正直になった、「花嫁」になる第一歩だったのだ。

 

五等分の花嫁~ありがとうの花~

五等分の花嫁~ありがとうの花~

私的2021年楽曲10選

やっていきます2021年楽曲10選。

 

ライブに行ける機会は減っているものの、自宅で過ごす時間は引き続き多く、またそれに伴いアニメコンテンツに触れることも多々あるので、アニメ起用の楽曲が多くなりました。

 

2021年1月〜12月リリースの楽曲から選定し、1アーティスト/コンテンツまでとします。

最後までお付き合い下さい。

 

 

 

wi(l)d-screen baroque/大場なな(CV:小泉萌香)

【作詞】中村彼方 【作曲・編曲】三好啓太

wi(l)d-screen baroque

wi(l)d-screen baroque

  • 大場なな(CV:小泉萌香)
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<歌って踊って奪い合いましょう>

『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』より。もうイントロから世紀末。その瞬間からレヴューが始まり一気に引き込まれて、そして気付いたら大場ななに魅せられている…そんな感覚。

 

サウンドが軽快でありながら非常に緻密な作りで聴き惚れてしまうわけですが、劇中の展開も相まって尋常ではない没入感に膝を打ちます。

 

 

in case.../BiSH

【作詞】JxSxK 【作曲】松隈ケンタ

in case...

in case...

  • BiSH
  • ロック
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<そうわかってるそうさわかってるけど 立ち向かう用意をしよう>

アニメ『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』のOPに起用されているのですが、激しいギターサウンドと力強い歌声が作品の世界観にもよく合います。

 

ゴジラという未知の存在や抗えない未来を解明し立ち向かおうとする人類の葛藤を、共に覆そうというパワーを感じさせるのが素晴らしい。

 

作り込まれたサウンドも一度聴けば耳に残り、音だけでいかに引き込まれているかということにも気付かされるんですよ。

 

 

GIRI-GIRI borderless world/LizNoir

【作詞・作曲・編曲】Q-MHz

GIRI-GIRI borderless world

GIRI-GIRI borderless world

  • LizNoir
  • アニメ
  • ¥255
  • provided courtesy of iTunes

<心はウソの中じゃ 息ができなくなるよ>

『IDOLY PRIDE』において、LizNoirとして作品に携わるスフィアの面々の力量が思う存分発揮されている本楽曲。

流れるような音の礫と掛け合いが非常に気持ち良く、今最もライブで聴きたい楽曲と言っても過言ではありません。

 

作中におけるライバル的な立ち位置として登場するLizNoirのポジションに納得感をもたらす1曲だと思います。

 

 

おもいでしりとり/DIALOGUE+

【作詞・作曲】田淵智也(UNISON SQUARE GARDEN) 【編曲】睦月周平

おもいでしりとり

おもいでしりとり

  • DIALOGUE+
  • アニメ
  • ¥255
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<言葉を繋いで答えになれ やっと言えるんだ>

韻の踏み方や言葉選びに作り手の“らしさ”を感じるこの楽曲はアニメ『ひげを剃る。そして女子高生を拾う。』のOP。

どうにも耳に残り頭の中でループしてしまうような印象で、田淵智也の上手さにやられたような感覚が強いです。

 

 

神或アルゴリズム(feat.りりあ。)/オーイシマサヨシ

【作詞・作曲】大石昌良

オーイシマサヨシ原案・プロデュースを手掛けたプロジェクトのデュエットソング。オーイシマサヨシの伸びやかな声量にりりあ。の優しくエモーショナルな歌声が交わって聴き応えのある1曲に仕上がっています。

 

「バズらせることを意識した楽曲」と本人が言っている通り、これまで流行った楽曲のメロディをインスパイアしたような印象も受けますね。逆に言えばスルメ曲とも言えるので、ハマる人にはとことん刺さるのではないでしょうか。

 

 

NAMELY/UVERworld

【作詞】TAKUYA∞ 【作曲】彰・Yuzuru Kusugo・Satoshi Shibayama

NAMELY

NAMELY

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<運命が目を離してる隙に あともう少しだけ>

UVERworldとして『七つの大罪』に携わる2曲目の楽曲は、普段から一緒にいることのありがたさや愛しさを込めた切ないバラード調のものとなりました。


彼らとしては珍しくメンバー以外の面々も作曲にクレジットされていますが、リリースに至ることも納得の素敵なサウンド。そして言葉選びの美しい詞。僕の中でどちらもバチンと嵌った1曲でした。

 

 

私のSymphony/Liella!

【作詞】宮嶋淳子 【作曲】高木誠司・高慶“CO.K”卓史

<ちっぽけな昨日までの私じゃない 奏で始めたんだ 夢を>

CD収録限定楽曲なのですが、アニメ『ラブライブ!スーパースター!!』の劇中歌として、主人公・澁谷かのんのターニングポイントを彩った1曲。

 

夢に向かって足踏みをする人に希望を与えるそんな歌詞はキャラクター達に留まらずキャスト陣の境遇にもリンクしていて、いつ聴いたって心を打ちます。

曲調は明るくも涙を誘うような、そんなずるい楽曲です。

 

 

ユメヲカケル!/スペシャルウィーク(CV.和氣あず未)、サイレンススズカ(CV.高野麻里佳)、トウカイテイオー(CV.Machico)、ウオッカ(CV.大橋彩香)、ダイワスカーレット(CV.木村千咲)、ゴールドシップ(CV.上田 瞳)、メジロマックイーン(CV.大西沙織)

【作詞】マイクスギヤマ 【作曲・編曲】東大路憲太

<キミと夢をかけるよ いつまでも希望とともに>

2021年は本当に凄かったですね、ウマ娘。疾走感溢れキャラクターの生き様を最大限サウンドに落とし込んだかのようなアップテンポは、聴いていて気持ち良いです。

 

アニメのOPの躍動感と共に浴びるのも良いですが、テレビサイズでは入らない箇所でのパート分けも気分を底上げされるような愉快さがあって、どこまでも素晴らしいと思います。

 

 

一途/King Gnu

【作詞・作曲】Daiki Tsuneta 【編曲】King Gnu

一途

一途

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<一途に愛します 永久なんて必要は無いの>

『劇場版 呪術廻戦 0』の主題歌ということで、当初は流行りのコンテンツに流行りのアーティスト起用…いいじゃないかと思っていた矢先。そういった大人の都合なんかとっぱらったって、「売れるものには理由があるんだ」と納得させられる楽曲でした。

 

イントロからもうサビ。最初から全部まで全部サビです。この世の快楽を全て詰め込んだかのような刺激を耳からぶち込まれたかのような感覚に、耳がイキました。

 

それでいて歌詞の随所には乙骨憂太そのものが書き殴られていて、圧倒されました。これが才能ってやつなんだな。

 

 

Life is サイダー/アネモネリア

【作詞】宮嶋淳子 【作曲】秋葉広大 【編曲】小松一也

Life is サイダー

Life is サイダー

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<キズつける言葉も 真っ黒な気持ちも 泡になって消えるの>

ワンダーエッグ・プライオリティ』EDのこの楽曲…アニメを観た人は分かると思いますが、結構重い作品じゃないですか。

それでいてこのエンディングで「色々な出来事がサイダーの泡のように消える。」「しんどいこともあるけど、そんなサイダーも味わえ。」なんて具合で歌い上げられるんですよ。正直めちゃくちゃキツイ。

 

しかもそれらを色々な出来事が待ち受けるキャラクターを演じるキャスト陣で歌うんですよね。だから余計にしんどいわけなんですけど、故に目を(耳を)背けられないなと謎の正義感にも襲われて、ちゃんと向き合いたいと思わされる楽曲なんですよ。

 

 

以上、私的2021年楽曲10選でした。

それでは最後に殿堂入り楽曲を紹介してお別れです。

メッセージ性の強さや本人達のライブでの圧倒的な入れ込みようを見ると、これは別枠にせざるを得ませんでした。


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来年もよろしくお願いいたします。

私的2021年映画ランキング:ベスト20

2021年は昨年に比べると映画館の営業も徐々に活発化していき、公開延期となっていた作品も少しずつ日の目を見るようになってきたように思います。

 

今回は2021年の映画ランキングです!

昨年に比べ劇場での鑑賞本数は減ったのですが、今年も多くの良い作品に巡り会えました。

 

▼私的2020年映画ランキングはこちら

kuh-10.hatenablog.com

 

今年は例年に比べ同じ作品を複数回鑑賞する機会が多かったように思います。それだけ1作品の厚みがあり、満足度も高かったという気持ちの表れでしょう。

そんな2021年の映画ランキング、どうぞ最後までお付き合い下さい。

 

 

  20位『パワー・オブ・ザ・ドッグ』

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牧場を継いだ兄弟。弟は結婚し妻とその子を連れてくるが、冷酷な兄は2人に酷い仕打ちをする。しかし兄の内に秘めた感情が彼自身の運命を変えていく。

 

終始不穏な空気が漂って緊張感が離れないんですけど、だからこそ俳優陣の演技が光る映画でした。

重苦しさの中で物語が進むので人は選ぶかもしれませんが、見終えると各所に散りばめられたシーンやタイトルの意味に唸らされるに違いありません。

 

 

 

  19位『エターナルズ』

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アベンジャーズが世界を守るその裏で、7000年にも渡って人類の行く末を見守るエターナルズという存在があった。地球の脅威が迫り、彼らは再び一堂に会していく。

 

エターナルズの面々のキャラクター性は挑戦的で独創性がありました。そこが世間の評判を左右している大きな要素でもあるようですね。
これからのMCUにどのような展開をもたらすのか楽しみになる1作でした。

 

 

 

  18位『ラブ&モンスターズ』

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地上をモンスターに支配され、食物連鎖の底辺に落ちた人類。頼りない1人の青年が生き別れた恋人に会うために危険な大自然へ身を投じていく。

 

勇気を出して自分の殻を破っていくことの大切さを解き、そこにモンスター要素を取り入れた、王道でありながらもまとまりのある作品でした。

良い意味で気軽に観れる1本ですので、ふとした時間にいかがでしょうか。

 

 

 

  17位『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』

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平穏な日常を送るボンドの元に旧友からの依頼が舞い込む。再び任務に就くボンドだったが、やがて大きな危機に進展していきー。

 

クレイグボンドの最終章。
これまでに比べてややライトな描写が目立つように見受けたんですけど、時折漂う哀愁はやっぱり007特有の渋さ。

シリーズを通してボンドの考え方や生き方の移り変わりが描かれて、非常に人間味のあるボンドを見ることが出来たのは良かったと思っています。

 

 

 

  16位『ラストナイト・イン・ソーホー』

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ファッションデザイナーを夢見てロンドンのソーホーに上京した女子大生。だが夢の中で60年代のソーホーで歌手を目指す女性に出会ったことで、徐々に彼女との感覚が現実世界でもシンクロしていく。

 

ロンドンの街並みを鮮やかなネオンと共に映し出していく巧みな画角に目を見張る、芸術性にも富んだ映画でした。

ホラー・スリラー・サスペンスといった要素が盛り込まれながら美しさも感じられるという、不思議な感覚に陥る作品です。

 

 

 

  15位『tick, tick... BOOM!:チック、チック...ブーン!』

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ニューヨークでウェイターのアルバイトをしながらミュージカル作曲家としての成功を夢見る青年は、30歳を間近にして恋や友情に悩み自らの現状に焦りを覚えていく。
これはあのミュージカル『RENT』を手がけた劇作家の苦悩を描いた物語。

 

多くの人から共感を得るであろう苦悩や焦燥を丁寧に描きながらも、それらをミュージカル演出で包み込むバランスの良さ。

ミュージカル映画ってどうしても歌やダンスで物語がぶつ切りになる難しさはあるんですけど、本作ではそれを感じさせない適度な演出が感じられました。
丁寧な演出や役者の幅の広さをひしひしと感じられる1作です。

 

 

 

  14位『マトリックス レザレクションズ』

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機械との戦いから月日は流れ、救世主と呼ばれた彼は日々の生活や自分のいる世界に違和感を感じ始める。果たしてここは現実なのか、それとも。

 

今になって続編をやる意義があるのか、当時のような革新的な見せ方を実現できるのか。鑑賞前はやはり懐疑的でした。

蓋を開くと、メタな部分が多いので本作に何を求め劇場に足を運ぶかで評価が変わることが想像できると思いました。個人的には好きでした…!
善し悪しは分かれると思うのですが、映像技術の進歩により1作目の衝撃を求めるのはそもそも酷だと考えていたので、そこで勝負をしない作風は刺さるものがありましたね。

 

 

 

  13位『ブラック・ウィドウ』

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かつて孤独な暗殺者だったブラック・ウィドウの過去と、アベンジャーズの存在によって徐々に変わった彼女の心情をダイナミックに時にセンシティブに描く。

 

これまでのMCUにないシチュエーションでのアクションシーンもあれば、ファンサービス満載な場面もあって、纏まった1作だったと思います。

家族というテーマと、そこに映し出されるヒーロー/ヴィランの対立構造にもハッとさせられました。この構図の上手さが実にMCUらしく、観ていて嬉しくなった作品。

 

▼感想記事はこちら

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  12位『カオス・ウォーキング』

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地球を離れ人類が降り立ったその星は、男性の考えがノイズとして他者に伝わる世界。女性の姿を一度も見たことのない青年が、墜落した宇宙船に乗っていた女性を守るために奔走し、やがてその星で起きた真実に迫っていく。

 

設定とキャスティングに存分に楽しませてもらえた本作。ノイズの視覚表現がキャストの顔と重なったりするのが気になったりCGの粗さなどから予算の低さは見て取れるものの、極限状態での人間社会の縮図をSF物語として昇華していてスリリングでした。

 

 

 

  11位『21ブリッジ』

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強盗事件が発生し、犯人の逃亡を阻止するためにマンハッタン島が封鎖される。島の封鎖が解除されるまでのタイムリミットが迫る中、警官だった父を殺害された過去を持つ刑事が事件の真相を追う。

 

サスペンスとしてスマートな仕上がりになっていて、アクションも程よい緊張感が漂うバランス感に優れた1作。

正義の信念を感じさせるチャドウィック・ボーズマンの目元のカットがとにかく印象的で、細かなカメラワークでスリルも余韻も楽しめる映画に仕上がっていました。

 

 

 

  10ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』

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ゲームマスターの手により、ゲームの中の死が現実での自らの死に直結することとなった「ソードアート・オンライン」。死と隣り合わせの世界で、プレイヤー達はそれぞれの道を往く。

 

リブート的な立ち位置だったので、演出面でのテレビシリーズとの違いがノイズになるシーンが多々あり初見時には思いのほか入れ込めなかったんですよね。

でもそういった細かいところを取っ払って2回3回と重ねると、キャラクターの心情が刺さってきてかなりの味わい深さがありました。音響の作り込みも素晴らしかったです。

 

▼感想記事はこちら

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  9位『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』

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音を立てることが死に直結する世界で新たな避難場所を求める家族。迫る脅威への対抗策を打ち立てるべく、次なる目的のため危険な地へと踏み込んでいく。

 

前作に比べて音の演出がとにかく巧みで、世界観への引き込み方が凄まじい。
子供達の成長過程もきちんと描かれており、且つ風呂敷を広げ過ぎないのも好印象。続編として異議ある1作だったと思います。3作目への期待も高まる見事な作りに脱帽です。

 

 

 

  8位『ファーザー』

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認知症を患った老人と、世話をする娘。介護士を拒否し続ける老人だが、自分の認識と他者の言動には相違が生まれていき混乱の日々が続いていく。

 

ヒューマンドラマなのですが認知症追体験しているかのような演出の上手さがとにかく際立ちます。自分は誰と話しているのか、言われた言葉はいつ誰からのものなのか、次第に分からなくなる苦しさが付きまとう…。

ミステリーを見ているかのような空気を漂わさながら、しっかりと現実との地続きである怖さや悲しさが伝わり、俳優らの極上の演技も相まって没入感たっぷりでした。

 

 

 

  7位『クーリエ:最高機密の運び屋』

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核戦争勃発の寸前まで達したキューバ危機。米ソ間の緊張が高まる中で戦争を回避するために機密情報を持ち出すべく、スパイ経験のない英国人セールスマンに白羽の矢が立つ。

 

史実であるがゆえの重さはあれど、それを映画として描くための美術や音楽、さらには俳優陣の鬼気迫る演技に胸を打たれる1作となりました。

画面構成や演出も光り、セリフ以上に人物の関係性や感情も豊かに表現されていて巧みでしたね。

 

 

 

  6位『シャン・チー/テン・リングスの伝説』

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ホテルの駐車場係として働く男の元に、悪の道に走る父が差し向けた刺客が迫る。先祖の秘密を知った男は、父に立ち向かうべく己の過去と向き合っていく。

 

立体感いっぱいに見せてくるアクションが見ていてとにかく気持ち良く爽快。それでいてコメディ要素とのバランスも絶妙なのがポイント高いです。
MCUの今後を考えるとシャン・チーの合流をより楽しみにしてくれる出来に大満足でした。

 

 

 

  5位『フリー・ガイ』

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同じことを繰り返すだけの日々を送る男がふとしたきっかけから自分がゲームのモブキャラであること事実を知るも、大切な今とこれからを生きるために正義を全うしていく。

 

後半にかけての畳み掛けがとにかく凄まじく、ストーリーとしての納得感も心地良い本作。

この配給会社・スタッフならではのパロディなども爆発力があるんですけど、決して単なるファンサービスに留まらない物語構造やメッセージ性にも嬉しさを覚えました。

 

 

 

  4位『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト

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トップスタァを目指す舞台少女達。聖翔音楽学園99期生の面々は演目「スタァライト」を経て、何を感じ何を志すか。

 

テレビシリーズの続編の位置付けで描かれた完全新作はとにかく圧倒的でした。

失速することのないノンストップの上映時間は非常に濃く、観客が飽きることを一切許さない。何度も観たくなるその構造に、感情を動かされた人も多いはず。

 

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  3位『劇場版 Free!-the Final Stroke- 前編』

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舞台は全日本選抜から世界大会へ。泳ぐことに魅せられた者たちの青春群像劇は、やがて厳しい勝負の世界へと移り変わる。テレビシリーズの続編にして完結編。本作はその前編。

 

シリーズを通して積み重ねられてきたキャラクターらの関係性を惜しむことなく反映させ、感情を揺さぶりにかかる製作陣の手腕には相変わらず感嘆です。

青年が大人になる過程を描く本作は、これまでの描写を丁寧に切り取りながらも確実に階段をのぼっていて、胸にスっと落ち着く感覚が気持ち良い。キャラクターの仕草や絡ませ方も、ファンを喜ばせたいというスタッフの意志を感じて思わず頬が緩みました。

 

▼感想記事はこちら

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  2位『映画大好きポンポさん』

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敏腕映画プロデューサーであるポンポさんの元でアシスタントを務める青年が映画監督を任せられ、怒涛の映画制作の日々が始まっていく。

 

映像作品としてのクオリティの高さがまず前提として存在する本作なんですが、それ以上に構造の緻密さと巧妙な構成に脳が揺れる…そんな魔作でした。

冒頭ではここまでの作品とは思っておらず、物語が動き出してからの引き込み方が尋常ではないんです。

作中のメタ要素を眼前の映像からリアルタイムで受け取ることに興奮度は増し、展開も早いこともあってドーパミンが分泌されっぱなしだった、まさに観るクスリ。

 

 

 

  1位『シン・エヴァンゲリオン 劇場版:||』

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フォースインパクトが収束した世界。碇シンジと彼を取り巻く人物の物語は終わり、そして始っていく。

 

待った甲斐のあった最終章でした。

庵野監督の状況だったり世間の情勢だったり様々な要素はあれど、このタイミングだからこその描かれ方だったんだなと強く感じています。

終わってしまった寂しさはあれど、作品を作り上げていただいたことにありがとう。

 

▼感想記事はこちら

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▼鑑賞前の記事もどうぞ

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そんなわけで私的2021年映画ランキングのベスト作品は『シン・エヴァンゲリオン 劇場版:||』でした。

 

まさかアニメーション映画がこれほど上位を占めるとは思わず。しかしながらどの作品も本当に素晴らしいクオリティでした。

 

来年も素敵な作品に出会えることを願って。

私的2021年アニメランキング:ベスト20

気づいたら2021年も残りわずか。

直近何年かは観るアニメの本数が徐々に少なくなってきていたのですが、サブスクの充実が著しいこともあって今年はここ数年に比べると触れる作品の数が多少多かった1年でした。

 

放送中のアニメはもちろん、過去作品を見返す回数が増えた実感もあります。

新作が放送されるから過去作をもう一度観よう!久しぶりにお気に入りのあのアニメを観よう!そう思い立てばボタンひとつで家で作品を観られるわけですからね。便利な時代になったものです。

 

また、Netflixオリジナル作品などの配信限定作品も増えてきています。しかもこれが面白い作品が多い。時間を取られてしまうのは嬉しい悲鳴でしょうか。

 

そんな2021年の私的なアニメランキングをまとめました。ぜひ最後までチェックしてみて下さい!

 

 

  20位『スーパー・クルックス』

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刑期を終えたヴィランが仲間を目論むのは、金額も危険度も桁違いな計画。街の平和を守るヒーローの目をかいくぐり、彼らは一世一代の勝負に挑む。

 

ヒーロー作品が増えている実感はありますが、本作はそんなヒーローに一矢報いてやろうというヴィラン達の物語。

能力と能力のぶつかり合いに、ひと癖もふた癖もある登場人物らの掛け合いは実に愉快です。

 

 

 

  19位『PUI PUI モルカー』

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車になったモルモット達はハチャメチャな生活に大忙し。彼らは今日も街の至るところを走り回る。

 

プイプイ!プイプイプイプイ!!!!

プイプイプイ〜〜〜〜プイプイプイプイ。プイプイプイプイプイプイ!!!!!!!プイ〜プイプイ〜〜〜〜〜〜〜〜プイプイ!!!プイプイプイ〜〜プイプイ〜〜〜〜プイプイプイプイプイプイプイプイプイ!!!!!!

 

 

 

  18位『ホリミヤ

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恋愛に友情に、高校生活にも悩みは尽きない。人気者のモテ女子と存在感の薄いネクラ男子が出逢い微炭酸な青春が始まる。

 

日常の切り取り方とそこに重なる映像美。一見すると青春を謳歌しているようなキャラクターも胸に秘めたものは確かにあって、そこの繊細な描き方が美しい作品でしたね。

 

 

 

  17位『先輩がうざい後輩の話』

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徐々に仕事も覚えてひとり立ちを目指す後輩と、鬱陶しくも面倒見の良い先輩。仕事に奮闘する2人を取り巻く日常ラブコメ

 

動画工房がガチっとハマっている本作。OPから作品の色が抜群に出ていて、思わず頬が緩んでしまいます。快活な会話劇も相まって、心地良さを感じるアニメでした。

 

 

 

  16位『王様ランキング』

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国の豊かさや国王の強さなどを順位付けする王様ランキングにおいて7位の父を持つ王子は、生まれつき耳が聞こえず力も弱い。だが、とある出会いをきっかけに物語は動いていく。

 

主人公の純粋無垢な優しさや周りの人々の温かさに胸がじんわりとなるだけでなく、回を追うごとに登場人物の背景が深掘りされていき、余韻が尋常ではないです。絵のタッチもそれを手伝って、包容力いっぱいの作品。

 

 

 

  15位『小林さんちのメイドラゴンS』

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メイドに小学生にエンジニアに…人間界に紛れ込むこととなったドラゴン達は人間との異種間コミュニケーションを満喫していた。しかし、そんな日常に新たなドラゴンの脅威が迫る。

 

ますますパワーアップして帰ってきた第2期。

人間とドラゴンの交流をコメディタッチに描きつつ、人種や世代を超えた多様性を訴える側面もあり完成度の高さに思わず唸ってしまう作品でした。それでいてキャラクター達も可愛らしく掛け合いも楽しいので、総合力の高さが光ります。

 

 

 

  14位『不滅のあなたへ

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地球に投げ込まれた1つの“球”。それは「刺激を受けた物へ変化できる能力」と「死んでも再生できる能力」を持っていた。石、オオカミ、少年…様々な姿に変化していく中で多くの感情に触れ、永遠の旅を続けていく。

 

あらすじからして既に引き込まれるわけですけど、シリアスながら目を背けられない引力を感じるんですよね。

物語を通して続く喪失感と、「個とは」「死とは」という問いかけに、作品が持つ底なしの深みを感じられる1作です。

 

 

 

  13位『のんのんびより のんすとっぷ』

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春夏秋冬の田舎生活を送る、学年も性格も違う生徒達。のどかな毎日だけれど、流れる月日が少しずつ変化をもたらしていく。

 

穏やかな日常を丁寧に描いているわけですけど、登場人物らは歳を重ね学年が上がっていきます。

進級や卒業があれば出会いや別れもあるわけで、そんな何でもないような日々の尊さを説く第3期に思わず胸が熱くなりました。

 

 

 

  12位『SK∞ エスケーエイト』

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閉鎖されたとある鉱山ではスケートボードで滑り降りる極秘レースが行われていた。ルール無用の危険なレースにプライドを賭けて挑む若者達により白熱した勝負が展開されていく。

 

予告編の時点ではまさかこれほどまでに面白いと思っていなかったダークホース。

キャラクターの愛らしさに、それぞれの関係性も熱いものがあって、人気の高さも納得のアニメでした。

 

 

 

  11位『ホワット・イフ…?』

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MCUで起きることのなかった“もしも”を描くMARVEL作品。

 

映画で描かれた本筋とは違う、「もしもあのキャラクターがあの時こうなっていたら」をアニメーションで展開。

シリーズを通して描かれてきた展開を知っているからこそ、「もしも」の物語にもどこか納得してしまう不思議な感覚に陥ります。

 

 

 

  10位『ゆるキャン△ SEASON2』

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キャンプの楽しさと、それを友達と共有する喜びを知っていく女子高生達の様子をゆるやかに描いていく。

 

第1期からの物語を地続きに描くことってマンネリにも繋がると思うのですが、本作は変わらないからこその良さがあります。

もちろん友情を深めたりキャンプの経験を積んだりと変化はありますが、描かれる本質は変わらないんですよね。そんな難しさを容易くやってしまう技量に脱帽してしまう第2期でした。

 

 

 

  9位『スター・ウォーズ:ビジョンズ』

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スター・ウォーズ』の世界を舞台に、日本の9つのアニメスタジオが新たなビジョンで描く短編作品。

 

スタジオごとの独自の視点で物語を紡いでいくわけなんですけど、これがまた様々な色が出ていて非常に良いんですよ。

世界的な大作を「公式同人」として展開できる凄さと、スタジオの力が結集された各々の作品は見応えがあり、どのストーリーも違った良さが感じられて楽しめました。

 

 

 

  8位『鬼滅の刃 遊郭編』

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無限列車での戦いを終え、傷を癒す面々。次の任務に就くこととなる一行だったが、仲間からの情報が途絶えたことで、夜に輝く遊郭に潜入するのであった。

 

大きな記録的な打ち立てた劇場版の続編にあたるテレビシリーズ第2期は、漂う風格が王者のそれ。

相変わらず会話のテンポが個人的に気になるものの、ちょっと見せ場が来ると一気に畳みかけられる圧巻のバトルシーン。映像処理やエフェクトも目を見張るものがあり、今後数年続くであろうシリーズの行く末が益々楽しみになりました。

 

 

 

  7位『Arcane:アーケイン』

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革新的な技術により繁栄を続ける都市と、その地下で暴力が支配する街。2つの都市の間でかろうじて保たれていた均衡はとある事件をきっかけに崩れ、運命を共にしていた姉妹は巨大な陰謀に巻き込まれていく。

 

世界的な人気ゲーム「League of Legends」を原作とし、独特のタッチと巧みな3D技術で描かれる本作。ゲームらしさをやんわりと残しながらもアニメーションとしての良さが作品全体の質をグッと高めています。

世界観を演出する美麗な映像や豊かな色彩、包み込む音楽に度肝を抜かれました。

 

 

 

  6位『ラブライブ!スーパースター!!』

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東京の新設校に入学した少女が出会ったのは上海からの留学生。互いの歌声やハートの熱さに魅せられスクールアイドルとして活動することを決意した彼女らは部員を集め目標に向かって歩み始める。

 

舞台となる学園や街がシャレていて目で楽しめるんですけど、その光るセンスがキャラクター同士の関係性や描き方にまでダダ漏れていてとにかく最高。

第2期を見据えたストーリー構成も個人的には好みで、アイドル×スポコンの熱量がキャラクターや楽曲の良さをより引き出してくれました。

ユニットが5人である点もシリーズとしての新たな試みではありましたが、関係値の濃さが明確なのも良かったです。

 

 

 

  5位『ゴジラ S.P<シンギュラポイント>』

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変わりない日常に突如として出現した怪獣たち。ちょうど同じ頃、様々な場所で立場も異なる人々がとある調査によって少しずつ真相に迫っていく。

 

SFのディテールが本当に気持ち良く、そこに怪獣という要素も加わりワクワクさせられました。

怪獣プロレスを目当てだと肩透かしかもしれないですけど、ゴジラという神とも脅威とも捉えられる存在に対して空想科学的な視点を用いて立ち向かっていく様は面白かったです。

 

 

 

  4位『オッドタクシー』

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平凡な日常を送るタクシー運転手。日々様々な客を乗せて他愛のない会話をしていたが、彼らのやりとりが徐々に1つの方向に向かっていく。

 

キービジュアルを見た時点では想像もつかないストーリー展開に、どんどん見入ってしまいました。演出においてなされる「さりげなさ」が非常に光っており、だからこそ終盤に向けての布石が自然とできていたんだなと。

芸人がキャスティングされていた点もあまり類を見ないかと思いますが良い味を出しており音楽も世界観を一気に引き上げてくる。全てが良い意味で裏切られた作品でした。

 

 

 

  3位『スーパーカブ

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両親も友達も趣味も無い女子高生が1台のスーパーカブに出会ったことで、そのモノクロな日常が少しずつ色づいていく。

 

何も持たない主人公がふとしたきっかけで人生を豊かにしていく様を丁寧に繊細に描いていくのがとにかく美しい作品でした。

余計な要素がなく、普段は気にも留めないであろう生活音やふとした仕草がそれはもうリアルで、だからこそ凝った演出が心にじんわりとくるんですよ。

 

▼感想記事はこちら

kuh-10.hatenablog.com

 

 

 

 

  2位『ウマ娘 プリティーダービー Season2』

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ウマ娘たちは次のダービーに向けて各々が厳しいトレーニングを積み準備を続けていた。だが彼女らには勝負の世界の厳しさが突きつけられる。

 

キャラクターの可愛らしさと勝負の世界の熱さが共存する中で史実を元にしたエモーショナルな部分も損なわず、1クールを通して終始手に汗握る展開が素晴らしい。

次回作やアプリゲームの今後を見据えたファンへの目配せも要所で感じられ、懐の深さもありました。

 

 

 

  1位『ワンダーエッグ・プライオリティ』

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少女が謎の声と出会ったことで手にしたエッグ。「未来を変えたいならエッグを割れ」という声に従い、少女は自身の運命を切り開いていく。

 

2021年放送のアニメで最も自分の中に爪痕を残された作品。

思春期の美しさと脆さをドロッとした質感で描いていくんですが、キャラクターも過度に偶像化させないことでダークさがより引き立つ作風。色彩鮮やかな美術とテーマの暗さのギャップにもとことん引き込まれました。

 

 

そんなわけで以上、私的2021年アニメランキングでした!

どの作品もそれぞれの良さがあって、様々なアニメに楽しませてもらった1年間でした。

 

アニメーション技術や演出の幅が年々向上しているわけで、来年もどのような作品に出会えるか楽しみです。

それではオタクの皆さん良いお年を。

『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』感想/結城明日奈がアスナとしての覚悟を決めるまで

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(C)2020 川原 礫/KADOKAWA/SAO-P Project

 

私が私でいるため。このゲームには負けたくない。

本作『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』は、そんなアスナの言葉と覚悟の上に成り立つ物語だった。現実と虚構の狭間で、彼女は強くしなやかにまっすぐ目の前の道を往く。

 

サブタイトルとなる『星なき夜のアリア』。

星や星座を見ればその方角が分かることから、それらは道しるべを示す手がかりとなる。星というのは様々な意味を含んでいるだろうが、ゲームに敗れたら現実世界で死に至り、クリアまで果てしない道のりが続く『ソードアート・オンライン』においてその道しるべは「希望」を指すのだろう。

 

アインクラッド編では、ゲームに幽閉され命をかけた物語が幕を開ける。絶望の最中、人々は現実世界へ帰るためわずかな希望を胸にステージを進んでいくことになる。だが100層ある内の1層ですらろくに攻略の糸口を掴めずにいたゲームユーザーは、その希望を失いかけていた。

まさに星のない夜のような真っ暗で先の見えない状況だと言えよう。瞬く星のない夜、視界も奪われている中、頼りになるのは聴覚。そこに希望のアリアが聴こえる。

 

ヒットポイントも残りわずかの絶体絶命の状況下で希望を失いかけるアスナの元に現れたのはキリトだった。彼の叫び、繰り出される斬撃が発する金属音。それは光を失いかけたアスナに届く希望そのものに他ならない。本作はそんな一筋の光が鮮明に見える作品だったと言えるのではないだろうか。

 

 

『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』の物語は結城明日奈の日常から始まる。

裕福な家庭で育ち、学業も優秀で一見何不自由なく暮らしているように思える明日奈。

 

だが、彼女に対する母親の目は厳しい。

学校の成績が良いのは当たり前。頑張ってテストで良い点を取っても褒められることはなく、認めてもらいたいという欲求も虚しく、言葉の針でチクチクと刺される毎日。

 

そんな明日奈の周囲には学友がいて、勉強でもスポーツでも皆に頼られる存在だ。この一連の描写では自己最高得点を更新し一喜一憂する学友と、学年2位の成績を収めても母親に褒められることのない明日奈の対比をまざまざと見せつける。尊敬の眼差しを向けられはするものの「結城さん」と呼ばれるその関係は、果たしてどこまで親密度を測れるだろうか。

 

そこにいつも学年トップの成績である深澄。しかし、明日奈と違って深澄は学校で独り。学年トップの成績を残しても、それを褒めてくれたり隣に座ってくれる友達はいない。彼女には明日奈以外に友達と呼べる存在はいないのである。

 

そんな深澄は孤独で空いた穴を埋めようとするかのように大好きなゲームに熱を上げる。熱量の違いから友達と仲違いをしてしまった過去を振りほどこうとすらしているようにも思えるが、お家柄の厳しさと天秤に乗せながらもそれに付き合ってくれる明日奈の包容力が伺える。

ゲームが上手いことや勉強が出来ることといった、何かに秀でた者であるが故の孤独。誰かとは分かち合えない部分を持つからこその他人との線引きが、ミトのアバターが別性かつ実年齢とも離れていることに繋がるのかもしれない。

 

アスナとミトの対比は、ナーヴギア起動後も顕著だ。

自分とは正反対の大柄な男性のアバターで村を闊歩するミトとは違い、アスナは自身の写真を元にしたアバターを使用し、ゲーム内において友人の本名を大声で叫んでしまうというギルティにすら無自覚である。

 

ミトにSAOでの生き方を学ぶアスナ。学業でもゲームでも上を行くミト。自分のレベルの高さ故に他者との熱の乖離を生み溝を作ってしまった過去との決別を誓い、ミトはアスナに生きる術を与える。

キリトはソロプレイヤーであるがために他人との距離感が分からない。これは後にアスナを救った際のぎこちない発言やマップを渡す距離感にも如実に現れている。ミトの行動はキリトの人となりとの対比にもなっていると言えるだろう。

 

そしてアスナとミトが極限に立たされる崖。本作のターニングポイントとなるシーン。

結果的に2人は別の道を往くことになるわけだけれど、ミトがアスナとのパーティーを抜けてその場を去ったことは大切な友人を救えない自分と、彼女の死から目を逸らし逃げるという行動に他ならない。

恐らく我々がミトに対して抱く感情が最も大きくなるシーンであろうが、しかし自分の命すら失いかけて尚アスナの元へ向かえるか不明瞭だという厳しい現実を鑑みると、この選択は生存本能に従った結果の、実に人間らしさの詰まった行動と言えるのではないかと思う。

 

アスナはパーティーを組むという行為についてミトから「友達である証」だと説明を受けていた。それを解消されたということはアスナにとってその行動以上に「仲違い」という大きな意味合いを含んでいる。

 

アスナの夢の中の光景は、紛れもなく彼女の願望そのものだ。母親に褒められ、父親や兄に認められ、そこに生まれる家族団欒の時間。ゲーム内とは違う、これまでの日常における結城明日奈の願いだ。

だが、奇しくもそれは現実ではない。今、アスナが生きるべき現実は、ゲームの世界に広がっているのだから。

 

そのような中でアスナに提供されたクリームパンとお風呂は、今後のゲームでの歩みにおいてキリトから差し出されたささやかな希望のメタファーだ。一方のミトは「絶対にアスナを守る」という約束を守れないと悟った絶望と、友達の死を目前にする辛さから逃げてしまう。

 

現実世界に戻れなくなった今、ゲーム内で無自覚ながらにもアスナに希望を差し出すキリトと、共に生き抜くことを放棄してしまったミト。2人がアスナにもたらす価値が、アスナの中で残酷なまでに明確に、そして決定的となっていく。

 

キリトから受け取った希望は、アスナの中で徐々に大きくなっていったことは言うまでもない。ミトが自分から離れていった事実を受け入れながらも責めることをせず前に進むことを決めたアスナ結城明日奈というヒロインの完成度を体現した心の清さに、胸がいっぱいになる。

 

ボス戦への道中は、アスナがゲーム内における生き方への問い・迷い・覚悟が混ざりあったものであり、これまで同様のゲームをプレイして来なかったごく普通の女の子が生死をかけた戦いの地に向かう狭間。普通のゲームであれば(アスナの言葉を借りるのならば遠足のような)移動にこれほどの時間と労力は使わない。

 

そんな束の間の精神的な休息と、彼女の道に後ろはないという区切りのシーン。現実とは認めたくない現実を受け入れると共に、このゲームに屈しないと胸に刻むアスナの隣には、キリトがいる。

 

結城明日奈アスナとして自らの足で前を往く『ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 星なき夜のアリア』。アスナが閃光と呼ばれる前の序章。

次回作の公開も発表された『プログレッシブ』において、アスナの行く末を見届けられることがとにかく楽しみでならない。