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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

澁谷かのんの主人公性と夢の先

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

12話をもってアニメ第2期の放送を終えた『ラブライブ!スーパースター!!』。

スポ根的な熱を帯びながらも次のステップへと進んだ本作は1期と2期で大きく変わった点として1年生の加入が挙げられるが、同時に澁谷かのんのカリスマ性がとにかく炸裂していた。

 

昨年放送された第1期で描かれたのは、5人の少女達がそれぞれ抱える苦悩や葛藤を乗り越えてスクールアイドル「Liella!」として結ばれていく等身大の姿だった。出来ないことと向き合う怖さ、続けていても報われない辛さや苦しさ…。

 

かつての澁谷かのんにとって「歌うこと」と「歌えないこと」は、真逆の意味合いを持ちながらも確かな現実として彼女に重くのしかかっていた。

外の世界をシャットアウトするためのアイテムもまた、音楽を聴くためのヘッドホン。結局のところ彼女は音楽との接点を断てずにいたわけだ。これはもう仕方ないことなのである。澁谷かのんという少女は歌が好きなのだから。

 

そんなかのんの歌に魅せられた可可。かのんを暗い世界から引き上げたのも逃避の道具として機能するはずだったヘッドホンから流れる音楽であり、彼女らのこれから着実に色味を帯びていく。

 

そう、第1期の特に前半に関して言えば、いかにも主人公らしい快活さで物語を目まぐるしく動かしていたのは上海から海を渡ってきた少女だ。

彼女は澁谷かのんという女の子が殻を破らんとするまでの原動力として、物語の始まりを告げる役割を担う。好きと言う気持ちとリスペクトの念だけで単身海外へと身を投じる強さというのはもはや主人公のそれである。

 

一方のかのんは自分に落胆し周囲の失望に目を伏せる、感情が表に出やすい少女だと言える。物語の序盤では分かりやすく可可とかのんの2人が明暗の対比として描かれていた。

 

だが、ヘッドホンで殻にこもろうとも、周りを放っておけないのが澁谷かのんである。やりたいことをやれない悔しみを抱える人の声も、自分を求める人の叫びも、完全には遮断できない心の芯が確かにある少女なのだ。ましてや、それが誰かの夢へと繋がることであれば尚更。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

かつて周囲の期待を受けて臨んだ場所で味わった挫折を経ても尚、夢に飛び込みたいと願い続けたこそのスクールアイドルという道。澁谷かのん達Liella!は進級し、後輩を持つ立場となった。

新設校であるため先輩という存在がいなかった2年生。1年生が2年生に追いつこうと食らいついていく姿と同時に、2年生が1年生を導く上での苦悩も描いていく。2年生の手探り感も第1期を経てのラブライブ!優勝への意識と並行して高まっているのが非常に良い。千砂都が部長として皆を引っ張っていくところだったり可可が自らの練習メニューを元に後輩の背中を押すところだったり。そこには器用さはあまり見られないのだけれど、それでこそ学生の青春だと思える。

 

そして先輩らとは対照的に運動も苦手ながらLiella!とラブライブ!に魅せられ入部を決めたきな子が2年生の不器用な面を引き出している印象を受ける。きな子はスクールアイドルとしての実力の面において至らない自分を変えたいと思い努力できる強さがある。健気にまっすぐに、少しずつだけど着実に、彼女は実力をつけ先輩に追いつこうともがいている。環境や他人を責めずにひたすらに努力を積み重ねることができるきな子のそれは、確かに1年生の主人公なのだ。

だからこそそれを感じ取れるかのんはきな子を導いていくし共に歩みたいと思う。そこに共感した他の2年生も一緒になって手を伸ばす。先輩として時には間違えながらも自分達で部を形成していく。それが素敵だ。

 

澁谷かのんという女の子には「感動を伝えたい」という想いが根本にあって、自分の見ている世界を後輩に魅せたいからこそ歩み寄ったのが第2期の始まりだった。そんな強い引力によってきな子は確かに惹かれ、1人またひとりと仲間が増えていく。

かのんのエゴイスティックとも言えてしまう想いに人が集まるのは彼女のカリスマ性であり素質的な部分だ。しかしながらそこに必要以上の上下関係を形成せずに“共に歩んでいく”ことは「先輩禁止!」のラブライブ!シリーズならではの関係値をしっかりと引き継いでいる点においても上手い。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

部活動の側面における、実力者のみが戦いの場に身を置くことの是非。「それはスクールアイドルじゃない」という素直な心境に対し「じゃあ何がスクールアイドルなの?」という問いかけは当然生まれる。だが、Liella!が9人体制として立っていくためにはこの原点には立ち返る必要があった。

現時点で5人の方が高いパフォーマンス力を発揮できる現実を受け入れつつも、そこに4人が増える意味を見出さなければ作品として説得力が欠ける。今は何も出来ないけれど、いつかは追いつきたいという本気の熱量を、これまた凄まじい熱量を持つかのんが見出していく。

 

だからこそ、ずっと物語を進める意味で正解を掴んできたかのんが、すみれが悪役を買ったあの時には見えていないものがあったのは大変良かった。あれは可可とすみれ2人だけの秘密であり、いくらかのんと言えど分かりえない領域だった。ゆえに屋上でかのんが拳を握った時に、久しぶりに彼女がただの高校生に戻った姿を見られた気がして嬉しかった。

 

平安名すみれという仲間を本気で信じているからこそ彼女の芝居に表面的なものしか見い出せないやるせなさもあっただろう。第2期のかのんはどうしても無敵感が強く描かれていたが、やはり人間臭さも見たいのだ。(ビンタしちゃったらまた違った葛藤が物語を動かしちゃうからね…。)

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

そしてLiella!を揺るがすウィーン・マルガレーテという新星。彼女が常に上に立っていなければ気が済まないのは勝利と実力至上主義であるがゆえであり、孤高の黒鳥としてステージに佇む姿はLiella!とは相対するそれだ。

でも、だからこそLiella!は“9人で”ウィーンに勝つ必要がある。辛くても助け合い全員で楽しく進むのがLiella!としての歩むべき道だと認識をすり合わせたから、真逆のウィーンには負けてはならない。

優勝候補として持ち上げられ、でも勝ったことのないLiella!。世間体とは異なる、実はチャレンジャーであるLiella!をウィーンは暴いていく。

 

とはいえ昨冬の敗北からかのんは人一倍勝利に貪欲になった。生活リズムから、練習の姿勢から、日々の表情から、それは明らかに変化している。

ウィーンとの初対決はきな子を含めた6人での初陣でもあったが、ここでも負けを喫することとなった。だが、その負けを個人の敗北で終わらせないかのん。彼女の勝利への執念の強さはここでも出てくる。

学校のみんなや家族を含めスクールアイドルとしての結果がもたらすものをかのんはきちんと気にすることができるようになった。勝利も敗北も一緒に喜び悔しんでくれる人がいることをかのんは知っている。Liella!は自分達のスクールアイドル活動が誰かの糧や力になると知ったから、ラブライブ!にこだわるのだ。圧巻のパフォーマンスで人々を従えていくウィーンのそれは、Liella!の出した答えではない。

そうしてウィーンとの接触を繰り返していくわけだが、敵として向かい合う相手にすら彼女が何故そこに辿り着いてしまったのかと知ろうと迫る姿は、やはり澁谷かのんのらしさが詰まっていた。そこに対して交わす言葉を頼りに心に踏み込んで「真実の歌」に悩むのもまた、情熱で仲間を引っ張るかのんの優しさである。

 

澁谷かのんはストイックであると同時に同じくらい自虐的でもある。それは自分の立ち位置をきちんと理解できているからでもあり、他人に対しての優しさにも直結している。後輩を引き込む時もまさにそうだが、かのんには誰かの現状を当人よりも理解し問題解決に一役買おうという気質が備わっている。そしてそのためらいのなさはかつてスクールアイドルの勧誘に走り回る可可をかのん自身が遠ざけていたものである。Liella!としての1年がかのんの輝きを取り戻してくれたことに他ならないのだ。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!

かのんがこれまで引き入れた子達にかけた言葉は全て本気で言っていて、そしてLiella!をスクールアイドルの頂点に連れていくことで夢を見せた責任を果たし叶えようとしている。澁谷かのんが澁谷かのんたる所以である。

更にそこに至るまでの熱量や行動力は彼女が情熱的な主人公であることを教えてくれる。かのんは答えを見つけたらとにかく突っ走って手を伸ばしてくる。それは誰にでも出来ることではなくて、でもかのんはどこか無意識的にやってけるのだ。その情熱が悩める自分に向いてくるのだからLiella!の面々はどうしたって惹かれていく。“わたし”の物語をかのんに導かれ“みんな”の物語にしてしまう。見つけた答えに突き進み周りを巻き込んでしまう澁谷かのんの天性はまさにアイドルど真ん中と言える。

 

そうした“わたし”と“みんな”の物語はやがてかのん自身に向いていく。突如飛び出してきた留学の話。Liella!のみんなと一緒にいたい気持ちと世界で歌を響かせたい願いが生む葛藤が消えないが、その背中を大切な幼馴染が押す。

自分の気持ちに嘘をついたままスクールアイドルとしての活動をするのはかのんがかのんでなくなってしまうので留学をするもしないも自由なのだが、そこに彼女がきちんとした理由を提示してくれれば良い。12話のラストについては今後明かされていくので今は言及しないが、かのんの決意を絶対に無駄にはしないでもらいたいと願うばかりだ。

 

結局のところ『ラブライブ!スーパースター!!』において主人公が澁谷かのんであるのは、それぞれのキャラクターが辿り着くべき答えを見つけられる直感と、そこに至る道をまっすぐ走ることの出来る強さと優しさが彼女に備わっているからだと思う。その背中に続いてLiella!の道が出来るから、メンバーは安心して着いていける。

彼女の引力は確かに強力で、でも強引に引っ張ることのない思いやりも兼ね備えているから、澁谷かのんに惹かれる。物語にも納得感が生まれる。本主人公が持つオレンジという色合いが持つ勇ましさや暖かさは澁谷かのんの象徴だ。

 

世界中の人に歌を響かせたいという彼女の願いはきっとスクールアイドルを始めたあの時から少しずつ動き始めている。上海からやってきた少女に手を引かれ、幼馴染に寄り添われ、彼女なりの理由を見つけてその道を歩み始めた勇気と情熱こそが可能性を広げていく。青春全てを注いで目標としてきたラブライブ!優勝を果たした今、澁谷かのんは自分のこれからの世界に何を見るのか。実に楽しみだ。

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(C)2022 プロジェクトラブライブ!スーパースター!!