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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

『チェンソーマン』のページをめくる手がチェンソーの如く止まらない

チェンソーマン 1 (ジャンプコミックスDIGITAL)

チェンソーマン』が面白い。藤本タツキ先生原作の本作は週刊少年ジャンプで連載中で、「このマンガがすごい!2020」オトコ編4位に選ばれるなど今勢いのある作品だ。

 

タイトルは度々目にしていたこともあり、ふと思い立って1巻を手にとってみたわけだが、ページをめくる手が止まらない。バッテリーが切れるまで止めどなく歯を回し続けるチェンソーの如く、現在発売されている単行本6巻までを1日で読み進めてしまった。  

死別した父親の借金にまみれ貧乏生活を送っていた主人公・デンジは、チェンソーの悪魔であるポチタと共にデビルハンターとして生き抜いてきたが、とある事件をきっかけに自らが「チェンソーの悪魔」へと変身する力を手にする。悪魔の力を宿したデンジは公安によって管理される身となり、様々な悪魔と対峙していく。

 

悪魔が世に蔓延る世界を描く本作は、大胆不敵なデンジが周囲の人々に導かれ数々の悪魔とバトルを勃発させながらも少しずつ心の成長を遂げていく、そんなジャンプ連載作品としての本筋を外さない一方で、血にまみれかなりイカれた奴らがのさばるダークな世界観となっている。

 

デンジが戦う相手である悪魔は、そのほとんどが意志を持ち言葉を話すが、人間へ害を為す危険な存在だ。悪魔の源として、何らかモノや生き物、概念が元となって生まれる。そしてそれらは、人間がその名前を恐怖・嫌悪するほど力を増すのだ。

 

例えばデンジは「チェンソーの悪魔」だし、彼のバディーとなるパワーは「血の悪魔」。敵対する悪魔には「コウモリの悪魔」や「ヘビの悪魔」なども登場する。悪魔の元となっているものは、いずれも人々が持つイメージから恐怖感や嫌悪感を抱くものだ。

さらに悪魔は人間の血を補給することで力の増強や傷の修復もでき、人間の死体に憑依して「魔人」となる力を有するなど、危険な存在だ。中でも、現在最も恐れられているのが「銃の悪魔」であり、デンジはその存在を撃ち破るために戦いに身を投じていく。

 

一方で、人間と契約を結ぶ悪魔もいる。デンジの公安の先輩であるアキは「狐の悪魔」や「呪いの悪魔」と契約をすることで、悪魔の力を我がものとして戦っている。その代償は様々で時には自分の肉体の一部や寿命などを差し出すケースもあるが、悪魔に気に入られれば少ない代償で契約ができるなど、なかなかに悪魔界隈の懐の深さも感じるから妙に面白い。

 

そして、本作の大きな魅力のひとつはなんと言ってもキャラクターの造形の良さ。ビジュアルはもちろんのこと、悪魔の力を秘めながらも人間の本質的な部分が際立つキャラクターが多く登場する。それが特に光るのは、やはり作品の色としての役割を担う主人公のデンジだろう。

彼は借金を背負い自らの臓器を売るなど恵まれない境遇にあったものの、その生い立ちもあってか大胆で真っ直ぐな性格の持ち主だ。物語の原動力となる堂々とした立ち振る舞いで、周囲の人々を豪快に巻き込んでいく。

 

貧しい暮らしをしてきたことで幸福の基準は人よりも低く、かつては毎日パンにジャムを塗ったり風呂に入れればいいと願っていたほどなのだ。それが、最凶で最恐の「銃の悪魔」を倒すことを目標として公安に身を置くのだから、その突拍子のなさに読者が強く興味抱くのは当然ではないだろうか。

 

デンジは欲望に正直であるが故に、女性の胸を揉むためやキスをするために意欲をかき立てて命を賭けるような行動もとるのだけれど、これらが単に彼の人物紹介に留まらず、ダークな面を持つ『チェンソーマン』という作品におおよその均衡をもたらすと共に、マキマやパワーら女性キャラクターの魅力を引き出す要因にもなっているのだからとてつもなく上手い構成だ。

 

キャラクターの魅力という点においては、悪魔も例外ではない。本作は悪魔のビジュアルがとにかくカッコ良くて漫画の魅力に直結しているのだ。

次々と起こるバトルではそのスタイリッシュな展開にグッと引き込まれる。ぶつかり合う悪魔の風貌が良いからこそ戦いに迫力があり且つしなやかで、バトル漫画として色気すら感じるのが『チェンソーマン』なのだとハッとさせられる。そして気づけば単行本の最新刊まで読み終わっている始末だ。

 

一気読みしたこともあってか、漫画を閉じた時の興奮は実に悪魔的。豪快で爽快、一度始めると止まらない、まさに悪魔との契約。刺激を欲している方にはおすすめの作品です。