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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

“MCUのスパイダーマン”の魅力が留まるところを知らない

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©2019 Sony Pictures Digital Productions

 

2019年の映画ベスト10をまとめている最中なのですがその前に、今年最も感情移入してしまったキャラクターについて話をさせてほしい。

 

ピーター・パーカー。後にスパイダーマンとしてヒーローの道を歩む彼がたまらなく好きだと再認識できた2019年だった。

 

スパイダーマンといえば、一般的にはトビー・マグワイア主演の『スパイダーマン』が世間のスパイダーマン像となるのだろうか。いわゆるサム・ライミスパイダーマンと称される『スパイダーマン』はシリーズ3作に渡って制作された後に、アンドリュー・ガーフィールド主演の『アメイジングスパイダーマン』シリーズとしてリブートされ、今ではトム・ホランド演じるスパイダーマンが『アベンジャーズ』の世界線(MCU)に登場する。

トム・ホランドスパイダーマンの登場は単体作品ではなく、『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』だった。MCUにおいて何人かのヒーローは『アベンジャーズ』シリーズに登場した後に単体作品として描かれることがあり、スパイダーマンもその1人である。今年はシリーズ2作目となる『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』が『アベンジャーズ:エンドゲーム』の後の物語を描く1作として公開され、MCUフェイズ3に終止符を打った。

先日円盤も無事発売されたわけだが、スパイダーマンウォルト・ディズニー/マーベル・スタジオとソニー・ピクチャーズとの権利問題で世間を賑わせていたこともあり、それが一旦落ち着いたタイミングだったことも相まって、その喜びはひとしおである。

 

MCUの集大成となった『アベンジャーズ:エンドゲーム』の後、ある出来事に直面し真価が問われるピーターのヒーローとして成長する姿を描いた『スパイダーマン:ファー・フロム・ホーム』。トム・ホランド演じるピーター・パーカーに相変わらず必要以上に感情移入をしてしまう自分であったが、2019年を締める前に今一度“MCUスパイダーマン”について見ていきたい。

 

※ネタバレを控えるよう心がけていますが、『キャプテン・アメリカ/シビル・ウォー』『スパイダーマン:ホームカミング』『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』『アベンジャーズ:エンドゲーム』の内容に触れる記載もありますので予めご了承下さい

 

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©2019 Sony Pictures Digital Productions

 

先述の通り、スパイダーマンは過去に実写映像を2シリーズ展開し、現在のトム・ホランド主演で3シリーズ目となる。それぞれシリーズごとの特徴があるが、トム・ホランドスパイダーマンはまさに“MCU仕様”だと捉えている。

大前提として、僕はトム・ホランドが演じるピーター・パーカー/スパイダーマンが大好きだ。それは、街中を縦横無尽に飛びまわりアクロバティックな戦闘を繰り広げ、時にはジョークを交えながら愉快に敵を倒していくスパイダーマンのスタイルや辛い曲面にぶつかるシリアスな展開、親愛なる隣人としてのヒーロー像に加えて、何より「幼さや未熟さの残る不完全さ」がたまらなく愛おしいからである。そう、トム・ホランドスパイダーマンは危なっかしさを兼ね備えていることが実に特徴的なのだ。 


まず分かりやすく各シリーズの主演俳優らの年齢について。

2002年公開の『スパイダーマン』では、トビー・マグワイアは27歳。元々童顔ではあったが、シリーズ最終作品では30歳を超えていた。

アメイジングスパイダーマン』が公開された2012年、アンドリュー・ガーフィールドは29歳である。トビー同様に続編公開時には30歳を超える。

対して、トム・ホランドは『スパイダーマン:ホームカミング』公開時の2017年で21歳。MCU初登場の『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』はその1年前の公開だ。更にピーター・パーカーも15歳の設定と、前2シリーズに比べ最も若いスパイダーマンとなっている。およそ7500名の中からオーディションによって新スパイダーマンに抜擢されたトム・ホランドが、若くそして未熟なピーター・パーカーを演じる。

 

撮影時は上記よりも若かったということもあるが、ピーター・パーカーの設定そしてそれを演じる俳優らを比べると、3代目スパイダーマンは若さを全面に押し出している意図が見える。時代の移り変わりもあるだろうが、例えばピーターの叔母のメイの設定を考慮してもそれは明らかである。

 

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©2019 Sony Pictures Digital Productions

 

MCUでのスパイダーマンの初登場は、『シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』。当時、公開された予告ではキャプテン・アメリカの盾を奪い、華麗な登場を果たした新生スパイダーマン。全身スーツ姿で戦うヒーローであるため、過去作では戦闘時の感情を声色とセリフ回し、さらには身体全体の動きで表現していたが、突如として現れた彼が纏うスーツは瞼を動かすこともできる新モデルではないか。

これまでのスパイダーマンと大きく異なる点のひとつに彼のスーツが挙げられる。トム・ホランドスパイダーマンのスーツはピーター・パーカーお手製のものではなく、彼を戦いに引き入れたトニー・スタークによって作られている。そしてそれが後の物語に大きく繋がるのだから、マーベルスタジオの懐の深さには頭が上がらない。

 

かつてピーター自ら作ったコスチュームは決してヒーローらしいスタイリッシュなものではなかった。市販のフード付きパーカーにジャージ、黒のゴーグルという格好で自警活動を行う日々。そんな姿に目をつけたトニーがピーターに手を差し伸べた時。初めてスーツを目にしたピーターの驚きと喜びは、まるでサンタからのクリスマスプレゼントを見つけた子供のようだ。そんな感性を等身大で表現するトム・ホランドが愛おしくてたまらない。

 

しかし、周囲からの印象もまた「若さ」だったのだろう。初めての戦いの後、アベンジャーズの次なるミッションにいつ呼ばれても万全だと言わんばかりのピーターの行動と、必要以上に彼の自警活動に深入りせず見守るだけの大人達の温度差に心がチクリとする。

そんな毎日を送る中での物語が『スパイダーマン:ホーム・カミング』で描かれるわけだが、ピーターを見守る大人は何も人間だけではないことに気付く。スパイダースーツに内蔵されたAI「カレン」もまた、ピーターを支える存在だ。スーツの機能についての説明や戦闘時のサポートはもちろん、ピーターの恋愛相談の相手にもなるなど、カレンの役目は様々である。周囲の人々にも正体を明かさず独りで戦うピーターにとって、カレンの存在はどんどん大きくなっていったことだろう。叔母と暮らしているとはいえ、早くに母親を亡くしている(現時点でその描写はないが)ピーターにとっては、一緒にいて居心地の良い相手だったに違いない。

『ホーム・カミング』では認められたい一心のピーターが失態を犯してしまう場面もあるが、実直な精神を失わずにヴィランの悪事に真っ向から立ち向かい大きな成長を遂げる。親愛なる隣人が世界の危機を救う第一歩を踏み出したのだ。

 

アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』、そして『アベンジャーズ:エンドゲーム』では、強敵サノスを前にヒーローも我々も絶望を味わうこととなる。圧倒的な力を持つサノスの前に、心が折れそうになる。しかし、だからこそ、トニーとピーターの間の確かな絆も感じられたはずだ。思えば、かつて父親と距離を置き息子を持たないトニーと父親を早くに亡くしたピーター。この2人がこれほどまでの確かな信頼関係に結ばれることは必然だったのかもしれない。

 

『エンドゲーム』後となる『ファー・フロム・ホーム』の物語では、ピーターのヒーローとしての葛藤と、学生らしい甘酸っぱい恋模様をこれでもかと描き切る。MJを演じるゼンデイヤも前作よりさらにキュートな一面を見せてくれる。ひとつひとつのやりとりに思わず口角が上がってしまうことは必至だ。

 

本作ではヒーローとしても学生としても、トム・ホランドスパイダーマンによる魅力が前作以上に詰まっていたように感じる。真っ直ぐさや若さなどピーターのらしさが物語のエッセンスとなっており、それが恋愛描写からヴィランの登場に至るまであらゆる場面に直結する。これらはトビー・マグワイアアンドリュー・ガーフィールドが演じたスパイダーマンにはない、“MCUスパイダーマン”だからこそのものだろう。

 

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©2019 Sony Pictures Digital Productions

 

トム・ホランドのキュートなルックスと芯の強い真っ直ぐな演技。『ホームカミング』『ファー・フロム・ホーム』とシリーズの監督を務めるジョン・ワッツの巧みさ。メイおばさんをはじめトニーやハッピーらに導かれ、女の子に恋をして、ヒーローとして悪に立ち向かう一方でしっかりと地に足をつけて街の平和を守ることも怠らないピーター・パーカーそしてスパイダーマンの人物像。

これら全てが上手く融合して形成されてきているのが“MCUスパイダーマン”なのではないだろうか。危なっかしさと勇敢さは紙一重とも取れるが、まさにそれをどちらも兼ね備えたピーター・パーカーは我々を魅了して止まない。

 

未熟さを持つが故にその成長を見守りたいと強く願うスパイダーマンにも、新たな試練が待ち受けている。『ファー・フロム・ホーム』のエンドクレジットでは驚きの展開を叩きつけられ、本作は幕を閉じた。次回作ではより多くの脅威と戦っていくこととなりそうだ。そしてその未熟さ故の失敗を繰り返しながらもひとつまたひとつと学び、多くに支えられ、ピーターは自らのヒーロー像を確立していくのだろう。

かつてピーターを認めた男がヒーローとしての第一歩を踏み出した時のように、もしかしたら「僕がスパイダーマンだ。」なんて言葉を言い放ち、次なる敵へと立ち向かっていくことになるかもしれない。

しかしながら、間違いなくMCUスパイダーマンは“親愛なる隣人”から“世界のヒーロー”へと成長していることもまた事実。これまでのスパイダーマン同様、「大いなる力には、大いなる責任が伴う」ことを強く実感するその日が来ることが、今から待ち遠しい。