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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

アメコミ作品が好きな人に一石を投じる『ザ・ボーイズ』をオススメしたい

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(C)Amazon Studios.

 

アメコミ映画はもはや市民権を得たコンテンツのひとつ。DCEUやMCUが多くのファンを獲得している理由は目を見張るような映像美だったり洗練された脚本だったりと様々かと思うのですが、その根底にあるものはヒーロー達の持つ魅力だと思うんですよ。

 

もちろん戦闘能力の高さやスーツのかっこよさといった表面上の魅力も確かにあると思うのですが、皆が思い浮かべる魅力的なヒーローってそれだけじゃないですよね。

 

生まれ持った能力がある故に葛藤を抱える者、落ちこぼれとしての扱いを受けながらも能力を得て這い上がっていく者、人一倍の正義感を持っているからこそ特別な能力を他人のために使う者…。

ヒーローたる所以は「心」とか「魂」とか、そういう内なる何かが魅力に直結していると思っていて。

 

ヒーローの数だけ魅力は存在し、そしてそれらが作品の土台として確かに息づいているからこそ、それらをクロスオーバーさせた『アベンジャーズ』シリーズはあれだけの成功に至ったのではないでしょうか。

 

逆に能力者がその力をただただ犯罪に使ったり私利私欲のためだけに活用しているのでは、我々もそこに魅力は見い出せないでしょう。

 

あのサノスに大きな魅力があるのは、ヴィランとして描かれた彼にも己の信条を貫くだけの覚悟を持っていたからであって、強さを誇示して闇雲に人をなぎ倒すだけの存在であったならばあれほど人々を惹き付けることもなかったでしょう。

ヒーローとヴィラン、それぞれの“正義のぶつかり合い”があるからこそアメコミ映画は輝くのです。

 

しかしながらこれほどアメコミ映画が流行している中で、「ヒーローは、本当に正義の味方だろうか。」などと薄ら笑いで問いかけてくる作品があるんですよ。Amazonオリジナルドラマの『ザ・ボーイズ』っていうんですけど。

 

2019年にAmazonプライムビデオでシーズン1が配信開始されるとアメコミファンをはじめ多くの人の支持を集め、配信から2週間でAmazonプライムビデオの最高視聴数を更新するなど、とにかく話題となったんですよね。何だかんだ見るのが先延ばしになっていたのですが、来月からシーズン2が配信されるということでこれを機に見てみたところ、これがまぁ面白い。世にヒーロー作品の文化が根付いた今だからこそ、面白さが増長される感覚すらある。

 

物語の舞台は、様々な特殊能力を持つ限られた人々がヒーローとして活躍する現代社会。ヒーロー達は「ヴォート社」という巨大企業に属しており、犯罪事件の解決に一役買うこともあれば、映画やCMなどの芸能活動にも駆り出される。世間的にもスーパースターであり、特に選ばれし7人のヒーローは「セブン」としてその名を轟かせています。

 

主人公のヒューイは平凡な青年で、例に漏れず子供の頃からセブンの大ファン。しかし彼は、セブンのひとりであり高速で走ることのできるヒーロー「Aトレイン」が恋人と衝突したことで、目の前で恋人を亡くしてしまいます。肉片が目の前で飛び散り、繋いでいた恋人の手がもげている惨状を目の当たりにし怒りに震えるヒューイ。事件を示談で済ませようとヴォート社のやり方に絶望するヒューイでしたが、ブッチャーと名乗る怪しい男にヒーローへの報復を持ちかけられます。

 

ヒューイがセブンに近づいていくにつれ、莫大な富と名声を得ているヒーロー達の本当の顔が次々と暴かれていきます。世間への姿は仮の姿、その実情は性行為の強要やドラッグの使用、事件の隠蔽などを行うヒーロー達の腐りきった世界でした。ヒューイはブッチャーと共に仲間を集め、スーパーヒーロー達に一矢報いていくのです。

  

 

上述の通り『ザ・ボーイズ』はヒーローを倒すべく能力を持たない一般人が立ち向かうアンチヒーロー作品です。何が皮肉かってヒーロー達のビジュアルや能力がキャプテン・アメリカ、スーパーマンワンダーウーマン、アクアマン、クイックシルバー、フラッシュなどMARVELやDCのヒーローに似せて作られているんですよ。

 

そして、本作が単なる娯楽作品に留まらないのは、ヒーローという輝かしい存在の裏での行為が現代社会を痛烈に風刺している作風であることが大きな要因だと言えます。

 

それは権力を振りかざした組織による政治問題への介入だったり、スターが薬物依存となっている実情だったり、著名人が女性を卑下する腐った事情だったり…。

そんな諸問題をヒーローないしは彼らを支配下におく組織の人間が裏で行っているという事実。ヒーローという眩しい存在による行為だからこそその闇も深く目に焼き付くんですよ。

 

シビル・ウォー/キャプテン・アメリカ』や『バットマンvsスーパーマン ジャスティスの誕生』などでも「ヒーローの行いによる被害」について言及されることがありました。しかし、『ザ・ボーイズ』は「正義による結果」が問題なのではなく、そもそものヒーローの人間性が腐敗しているんですね。

 

一方で、世間から注目の的であるヒーローだからこそ抱く不安や葛藤も描かれ、苦悩するヒーローの心情もフォーカスされます。セブンという選ばれし者に名を連ねるために手段を選ばないヒーローの姿には人間の弱さや脆さも垣間見え、シナリオに深みを与えているんです。

『ザ・ボーイズ』に登場するクズなヒーローを見ると他作品のヒーローの正義感をより感じるのも皮肉すぎて笑っちゃいますよね。

 

『スモーキング・ハイ』や『ネイバーズ』、『ソーセージ・パーティ』などでお馴染みのコンビ、セス・ローゲンエヴァン・ゴールドが製作総指揮を務めているあたり、納得のブラック具合。エロもあればグロもある。ヒーローが出てくるけれどR18。それが『ザ・ボーイズ』。

 

シーズン2の配信を控えさらにはシーズン3のキャスト情報も徐々に解禁されているので、これからまだまだ熱くなっていきそうです。