10versLible

10versLible

映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

『ストレンジャー・シングス』感想/友達は嘘をつかないし世界中での人気も嘘をつかない

f:id:kuh_10:20200110120217j:image

©NETFLIX

 

日本にも人気の波が定期的に押し寄せてくる海外ドラマ。『フルハウス』や『24 -Twenty Four-』、『ゲーム・オブ・スローンズ』など根強い人気を誇る作品は、本編を観ていなくとも名前くらいは知っているという人も多いのではないだろうか。

 

今でこそリアルタイムで追っている作品はほぼなくなっているが、僕もテレビにかじりつくように海外ドラマを観ていた時期があった。

きっかけは『LOST』という作品。飛行機の墜落によって無人島に漂流した生存者達が生き残りをかけてサバイバルを行う中で、島の謎や登場人物達の過去の繋がりが徐々に明らかになっていくスリル満点のサスペンスドラマだ。

 

そんな物語は、色鮮やかな海や山々など自然豊かな環境と、食料や武器を巡る生存者の間に見え隠れする心理描写の相反するバランスが実に見事だった。訳が分からないことが次から次へと巻き起こり、小さな伏線すらきちんと回収して何度だって驚かされる。未知なる世界観を描く上手さが実に際立ちどんどん観てしまう。

外国はドラマでも映画のような壮大な規模でこれほどまでに面白い作品を放送しているのかと驚愕してしまった。

 

それからというもの、気になる作品はひとまず手に取ってみるようになった。悪魔や幽霊、怪物などの超常的存在を狩る兄弟の戦いを描く『スーパーナチュラル』、殺人の罪で服役する兄の無実を信じて刑務所に入った弟の脱獄計画をスリリングに展開する『プリズン・ブレイク』、ゾンビに溢れた荒廃した世界でのヒューマンドラマ『ウォーキング・デッド』などなど…。

中でも、未来予知や空中飛行など超能力を持った人間達が表世界でその力を隠しながらも次第に交錯していく『HEROES/ヒーローズ』は特にお気に入りの1作だ。

 

どの作品もドラマとは思えない壮大なストーリーだというのに、1話およそ45分でそれを1シーズン展開してくれる。1話完結型のドラマもあれば、終盤にとんでもないどんでん返しを持ってきて次回の引きを際立たせるドラマもある。大ヒットを飛ばし本数にして10シリーズ前後となる作品だって少なくはない。先が全く読めず、やめどきが分からなくなる。まさに「海外ドラマにハマったら寝られなくなる」を体感する。

話題作ばかりを選んで観てきたということもあるだろうが、僕の中での海外ドラマの印象は「とにかく夢中にさせてくれるコンテンツ」なのだ。

 

ストレンジャー・シングス 未知の世界』も世界中で社会現象的ヒットを記録しているらしいことは耳にはしていた。Netflixオリジナル作品として展開される本作はとにかく面白く、今ではNetflixの看板作品だと聞く。

 

そのうち観ようと思い月日が経っていたが、先日ふと思い立って現時点での最新シリーズまで鑑賞したので、少々前置きが長くなってしまったがネタバレを控える形で簡単に感想を書いていきたい。

 

 

 

ある日起こった少年失踪事件と、突然現れた超能力を持つ謎の少女。見え隠れする不可解な研究所の存在。事件とはほとんど無縁な小さな田舎町を舞台に、次々と謎が謎を呼ぶ中で事件に巻き込まれた人々は未知なる存在に気付いていく…。

 

そんなあらすじとなっている本作は他作品においてどこか見覚えのあるシーンや設定が目立つ点は否定できないのだが、1週間もかからない内にシーズン3まで観終えてしまった。既視感が嫌悪感に変わらない、むしろ妙な中毒性がある。そんな確かな面白さが僕をテレビの前から離さない。なるほど、やはり世界中での人気も頷ける。

 

その要因のひとつは、時代設定にあるだろう。

舞台は1980年代のアメリカ。劇中のBGMや街並み、ファッションなど80年代ミュージックやカルチャーがとにかくキマッている。青年の髪型ひとつとっても、襟足を長めに残しながらサイドは耳にきちんとかけ前髪は流しながらスプレーでしっかり作り上げる、そんな当時の流行に気付くことができると同時に、時代を感じさせながら“ちゃんとかっこいい”。

様々なポップカルチャーを元にしつつ古臭さを露見させない絶妙なクールさがあり、その魅せ方が本作の味になっている。

 

時代背景はストーリー内の溢れるスリルもきちんと演出する。携帯電話がないため離れた仲間と容易に連絡が取れない。トランシーバーや固定電話を使用するも、その繋がりは不確実だ。それ故に時には各キャラクターが分断される。これが物語全体の不安を煽り、レトロな背景が不気味な雰囲気を更に自然に醸し出す。それが少しずつひとつの終着点に向かっていくのだから、痛快である。

 

また、作品の魅力として何より忘れてはいけないのが、登場人物らの年齢の幅広さだ。

中学校に通う仲良し4人組にその兄や姉、彼らの親やその友人の警察署長など、主要人物の世代は違っており、その融和が面白おかしい。

子供達が年相応に無邪気な会話をしているかと思えば、対する両親世代はしみじみと昔を懐かしむ。思春期の男の子達が女の子にドギマギしているかと思えば、女の子達は余裕を見せ男の子達の1歩先を行く。世代を感じるそれぞれのやりとりが、劇中のポップな部分を強調して良いスパイスになっている。

 

登場人物らは皆が皆、非常に魅力的だ。マイク、ウィル、ダスティン、ルーカスはいつも一緒にいる仲良し4人組。スパイごっこの延長のようなトランシーバーでのやりとりや未知の存在に遭遇した際のネーミングセンスなどは、本作の色がとても濃く映し出されていると感じる。幼さ残る彼らの言動は時に緊迫感を含むが、大人への階段を上る途中にいる彼らの豊かな感性で謎に迫る姿には少しずつ成長を感じ、何とも胸が熱くなる。彼らが個々のアイデンティティーを形成し、認知していく過程を見られる喜びも絶大だ。

 

高校生組のナンシー、ジョナサン、スティーブらも本当に頼もしい。弟世代と親世代の間の年齢である彼らはマイク達を先導しながら期待を裏切らない勇気ある活躍をしてくれる。一方で年相応に青春物語の風を吹かせてくれるから、隅に置けない存在だといえる。

 

もちろん、ウィルとジョナサンの母ジョイスや警察署長ホッパーもなくてはならない物語の一員である。やはりどうしたって、精神的支柱は彼らになる。大人が子供を想う気持ちはやっぱり眩しく愛おしい。

 

話題作であるが故に肩肘張って観始めたわけだが、すぐに世界観に引き込まれてしまった。

E.T.』、『IT/イット』、『グーニーズ』などのオマージュを感じさせる設定もあれば、実際に当時流行していた映画が作中で上映されるといったシーンも。少年らが『ゴースト・バスターズ』や『X-MEN』に夢中な様子も伺える。

まだ幼い彼らの立ち振る舞いに自分の子供の頃と重ね合わせてみたり、大人になった今の視点で一歩引いて微笑ましく見てみたり。タイムスリップして彼らと共に冒険しているような錯覚もあれば、当時のことをあれこれ考えては発見があったりと、気付いた時にはどっぷりだ。

 

今後の展開も非常に楽しみである。あのキャラクターがどうなるとか、人間関係に変化がありそうだとか、ストーリーの方向性が読めないだとか。何があってもおかしくはないという期待は海外ドラマにおいて持っていて良い感情だ。

 

あとは例えば、とあるシーンや設定が御産や性を感じさせたりと「生命」の暗喩のようにも思えたりして引っかかっているが、未知のことだらけであるため何とでも言えるのかもしれない。そういう物語全体としての疑念も、どこかに着地してくれたらとても嬉しい。

 

既視と未知の世界の共存を成立させる巧みさ。

80年代という「現代人にとっての過去」と作品内の「未知の世界」の裏表の不思議な関係性に、役者陣とキャラクター像の魅力がこれでもかと弾けている。既視感があるのにこれほどの面白さがある理由はそんなシンプルなところにあるのかもしれない。