2019年11月よりアニポケの新シリーズが始まった。
所々で原点回帰している様を見せながらもポケモンの歴史を経ても失われることのない「新しさ」が詰まった物語に、毎週圧倒されている。
Nintendo Switch用ソフト『ポケットモンスター ソード・シールド』の発売から2日後に放送スタートとなった本シリーズ。サトシと相棒ピカチュウが新たな仲間やポケモンとの出会いを通して成長していく姿を描いていく。
そんな新シリーズは1話1話がしっかりと心に残る良質なストーリーばかりで、シンプルに面白いと断言できる。そしてこれまでポケモンに触れてきた人であればより心を動かされるような、懐の深いポイントが詰まっている。
ちょうど1クール分12話までが放送されたが、決して熱量が下がることはなく、むしろそれを許さない入念な作り込み。前シリーズ『サン&ムーン』では独特のキャラデザとギャグテイストの強い作風との相性の悪さを強く感じていたため、今作の出来には喜びが大きい。気持ち冷めぬままに、簡単にではあるが感想を残していきたい。
今回のシリーズの素晴らしさは何と言っても、「まだ見ぬ世界へ足を踏み入れるサトシとゴウが感じるドキドキやワクワクが視聴者にリンクすること」だと思っている。
そしてそれは、新たな地方を旅してこれまで見たことのないポケモンと出会いを重ねた“ゲームにのめり込んだあの頃”を多分に思い出させてくれるのだ。
新シリーズではお馴染みのサトシと並び、ゴウという男の子がダブル主人公として登場する。
既にピカチュウという相棒を従え、ある程度の経験はあるサトシとは違い、ゴウはポケモンを持たず旅の経験もない。そんな彼は行く先々で出会うポケモンの姿に目を輝かせ、喜びの表情を浮かべる。
やがてモンスターボールを手にし、ポケモンの捕獲に挑戦していくゴウ。行動を起こせず考えあぐねてしまうような局面でも、サトシの助言や後押しで少しずつ道を切り開いていく。ポケモンと共存する世界で徐々に経験を重ねていくそんなゴウの生き生きとした姿には、ゲームに熱中した自分自身を重ねずにはいられない。
ポケモンと接するという点において同世代より一歩先を行くサトシに安心感を覚えつつ、対するゴウの初々しさたるや。言うなればサトシはゴウをポケモンの世界へと誘うナビゲーター的な役割も担っている。その中でゴウが新たな土地への足を踏み入れることのドキドキ感や、見たことのないポケモンとの出会うワクワク感を描いているのは本シリーズの特徴のひとつだろう。
まだ見ぬポケモンが出てくるのではないかと期待しながら草むらに飛び込み、新たな街や村を訪れては住宅や施設を探索する。場面ごとにBGMが変わり、ポケモンの持つ世界観へと没入させてくれる。時には波に乗り、時には木を揺らし、時にはタマゴを温めた先で出会うポケモンに興奮したあの頃。
ゴウは紛れもなく、我々視聴者の経験してきたポケモンのゲームの思い出を体現している。
初のダブル主人公を採用したことによる化学反応は予想を上回るほどの相乗効果を生み出しているのだ。
また、これまでのシリーズを彷彿とさせるようなサービス精神も見受けられる。ゲームやアニメのシリーズを通して育ってきた世代が大人になって子供ができるくらいの歴史を持つポケモンだからこそ実現する幅広い世代へのアプローチをとことん突き詰める製作陣の姿勢がひたすらに貫かれている。
例えば本シリーズではサトシとピカチュウとの出会いから始まり、サトシのママやその相棒バリヤード、オーキド博士も登場する。すっかりおなじみとなったサトシの寝坊シーンも忘れずサービスしてくれる心意気。
また、これまではゲーム最新作の舞台となる地方の物語がアニメとしても更新されてきたわけだが、本シリーズについては『ソード・シールド』のガラル地方を舞台としていない。サトシとゴウが住まうサクラギ研究所はカントー地方のクチバシティにあり、そこから各地方に出向いてポケモンの生態を調査するという基盤で物語が進んでいく。
エピソード0の位置付けで放送された1話「ピカチュウ誕生!」はサトシのピカチュウがまだピチューだった時の一幕という、これまで描かれていなかった頃の話だった。まさに無印のポケモン世代ですら見たことのない、しかしとてつもなく見てみたい、そんな絶妙な塩梅のストーリーである。
実際1話の出来栄えは、表面上のあらすじに見劣りしない素晴らしいものだった。
仲間がいなかったピチューの苦悩やそこから進化に至るまでの過程は、今のピカチュウを知るからこそ得られる感動があった。当然のように幅広い世代の涙を誘ってトレンド入りを果たしたのも納得である。
そんな1話の予告では次週の予告が流れるわけだが、そこに姿を現すのは伝説のポケモン、ルギアだ。感動の物語に畳みかけるように、いきなりサービスが過ぎる。
2話の「サトシとゴウ、ルギアでゴー!」では、ルギアの出現を予測したサトシとゴウがクチバシティで出会いを果たす。
現れたルギアに飛び乗るサトシとピカチュウそしてゴウは、空を海を縦横無尽に駆け巡る。雲よりも高く舞ったと思えば、急降下して海の中へ。彼らを取り巻く野生ポケモンも飛行タイプに水タイプに様々。
ポケモンの生態を伝説のポケモンに乗って見渡すという初めてだらけの体験に興奮するサトシ達の感情が、声と画を通してまるでジェットコースターに乗っているのように臨場感いっぱいに伝わる。
ルギアの対として忘れることの出来ないホウオウもしっかりと出番を見せてくれる。
9話の「あの日の誓い!ジョウト地方のホウオウ伝説!!」ではホウオウの目撃情報を元にサトシとゴウはジョウト地方へ。長年ホウオウを追ってきた老人と孫がその姿を一目見ようという諦めかけていた夢を再び取り戻していく様は、心にグッとくる構成で。
伝説のポケモンのバーゲンセールなどでは決してなく、それを元にひとりひとりの想いや物語があるのだと教えてくれる、素敵な仕上がりなのだ。
また、伝説のポケモンに関するエピソードを散りばめながら、『ソード・シールド』での新要素も忘れない。
12話「ダイマックスバトル!最強王者ダンデ!!」ではカントー地方のチーターことワタルと、ガラル地方のチャンピオン・ダンデがリーグ戦で激突する。
お馴染みのチャンピオンと新地方のチャンピオンによるバトルは、ダイマックスやキョダイマックスを用いての迫力ある描写の数々だ。しかし、よく考えてみるとリーグ戦においてチャンピオン同士が対決するという構図は、シリーズ終盤で描かれるのが常。それを12話というタイミングで大迫力のバトルと共に届けてくれるのだ。伝説ポケモンの登場や新シリーズの要素を惜しみなく且つバランス良く放ってくれる喜びといったら。
さらには楽曲へのこだわりも存分に感じられるから嬉しいことこの上ない。
OPの『1・2・3』を担当するのは、そらる・まふまふによるユニットAfter the Rain。
疾走感がありながら子供達も馴染めるようなキャッチーな部分も兼ね備える。イントロがゲームボーイの起動音で始まるところや、サビでモンスターボールが開く音が入っているところなんかも芸が細かく、ポイントが高い。
いわゆる歌い手界隈で彼らの名前は知っていたものの、その起用は若いターゲット層への狙いを差し引いても、納得の出来映えだ。
色鮮やかな映像がポップで、サトシ達を踊らせるダンサブルな一面もあり、のっけから上げてくれる。
EDの『ポケモンしりとり(ピカチュウ→ミュウ Ver.)』はタイトルの通り、ポケモンの名前でしりとりをしていく。
大人でもそうなのだから、子供達も自然と自分の中でしりとりをしてしまうであろうこの1曲。かつてのED『ポケモン言えるかな?』をどこか彷彿とさせるようなコンセプトが見え隠れするのは実に爽快だ。
懐かしのシチュエーションを感じさせつつ、明らかに新たな展開を見せてくれる本シリーズ。ポケモンで育ってきた身だからこそ、シリーズのプロットには感嘆するばかりだ。それでいて多種多様なポケモンの登場や目まぐるしく展開されるストーリーには、子供達も前のめりになることは間違いないことだろう。
新シリーズ『ポケットモンスター』には、製作陣のこだわりがとことん息付いている。