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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

『IDOLY PRIDE』が描く「対を成すもの」についての所感や考察

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【#これはただのアイドルアニメではない】

 

すごく勝負に出た打ち出しだと思います。これまで数あるアイドルアニメが世に出て、大規模な展開を続ける作品も少なくないですし、それらに触れてきて目も耳も肥えたオタクという人種に対してまっすぐな宣言を公式自らが発信しているわけですからね。

 

何をもってして「ただのアイドルアニメ」なのかという部分はありつつ、やはり他の作品と一線を画した何かを期待せずにはいられません。アニメを、キャラクターを、楽曲を、それらを通して一体どのようなものを魅せてくれて、また何を感じさせてくれるのか…『IDOLY PRIDE』には多くを求めてしまう自分がいる。

 

 

現状として本作に対して感じていることは、「対を成すもの」を一貫して描いているなということと、それらが終結した時にどのような感動が待っているのだろうという期待と不安。いくつかのテーマはあれど、詰まるところ『IDOLY PRIDE』が描きたいメッセージはそこに集約されるんじゃないかなと。

 

最終話までまだ話数は残っていますが、今回は現時点で『IDOLY PRIDE』の「対を成すもの」から見て取れる作品のメッセージや今後の展開についての所感や考察となります。

 

 


TVアニメ「IDOLYPRIDE -アイドリープライド-」トレーラー

 

①麻奈と牧野

1話。当時学生だった牧野は、自分と麻奈を決して交わらない光と影だと表現しました。可愛げがあって人気者の女の子に対して、冴えない自分は脚光を浴びることのない影なのだと。

 

アニメやマンガではこの構図は手垢のついたものですけれど、しかしどうでしょう。麻奈にとって牧野をマネージャーに据えたことは、本当に「ただ席が隣だったから」なのでしょうか。

 

麻奈はなぜ牧野にマネージャーを頼んだのか。スカウトされて星見プロに所属する際に、なぜ牧野をマネージャーにすることを条件としたのか。

 

アイドルという輝かしい存在になるべくこれから人生をかけようという時に、ただ隣の席に座っているだけのクラスメイトにその一端を担わせようとするでしょうか。追って描かれていくストーリーではあるのでしょうけど、ここは本作の肝の部分のひとつだと思っています。

 

さらには麻奈と牧野は「死者と生者」という点で対立した存在です。

 

2話で麻奈が自身の死後の琴乃の日常を知らなかったことから、麻奈は牧野から離れていないことが窺えます。だって仮に自分が急死して幽霊になったとして、普通は家族や友人の様子を見に行きませんか?自分を慕ってくれている妹のことを見に行かないというのは、少し考えにくいんですよね。

 

後に芽衣とふたりで映画館に行くシーンがありますが、芽衣は麻奈を視認できる存在なので、上記をふまえても恐らく麻奈は自身のことを見られる人間の周囲にしか居られないのだろうと考えています。

 

事故から芽衣の登場まで、麻奈は牧野から一定の距離以上は離れていないと仮定すると、今回のプロジェクトを立ち上げるに至るまでの牧野の苦労を麻奈は理解しているでしょう。プライベートまで近い距離にいるので、三枝よりもその解像度は高いかもしれませんね。

 

2人の絆が今後どのような形で花を咲かせるのかは、クライマックスでしっかり描かれていくに違いありません。

 

ところで、自分を影だと表現していた牧野でしたが、麻奈は幽霊になったことで一般的に言えば影側の存在になったんですよね。

だから対の関係ではありながらも同じ属性でもあって、今後どのようになっていくのか…。一応、プロローグで牧野が天を仰いで麻奈の名を口にするシーンがあるので、恐らく麻奈は成仏していくのだと思っていますけど、そうなれば彼女は天に逝き、そしてそれを光だと捉えるのならば、やはり光と影に帰化するのでしょう。

 

 

②琴乃とさくら

琴乃のNEXT VENUSプログラムの頂点に立つという目標は、麻奈の夢の継承です。オーディションの時点で周到に準備していたことは明らかですし、星見プロ所属後もステップアップのために余念がなく、多くのメンバーとの意識の違いが顕著でした。

そしてそこに現れたのが麻奈に似た声を持つさくらになります。

 

麻奈の実の妹であり容姿も似た琴乃と、麻奈に似た歌声を持ち麻奈の心臓を宿している可能性があるさくら。一躍トップアイドルに躍り出た麻奈の夢の後を追い、容姿と歌声で補完し合う2人。そして麻奈のことで意識的にアイドルになった女の子と、直感的にアイドルになった女の子という、異なるベクトルから同じ方向を見ている2人でもあります。

 

牧野は2人のどちらをリーダーにするか迷い、結果として互いの輝きを最大限に発揮できるように決断したわけですが、かつて麻奈を最も近くで見ていた彼の判断がこの2人を軸に据えたことからも、今後の彼女らには眩しさを感じるのだろうと期待しています。

 

 

③サニーピースと月のテンペスト

星見プロで一堂に会したメンバーでしたが、牧野は彼女らを2つのユニットに分断する。サニーピースと月のテンペストはその名の通り、太陽と月を冠した対象的なユニットです。

 

ユニット名から考えるメッセージ性ですが、太陽と月ってそのどちらもが人々の日常に寄り添うものですよね。

力強く暖かく、静かに鮮明に。異なる光だけれど、人々を照らす大事な存在。雲(ここでは人々の心の陰りをも表しているのでしょうか)さえなければ上を向けば確かに輝き、例え曇り空でもその向こう側できっとあなたを待っている。まさにファンにとっての大切なものの象徴をその名に宿した素敵なユニットだと思います。

 

「アイドル」という存在を作品の軸に据えた時に“ファンにとってのアイドル”をどう捉えて描いていくのかは根幹の部分でしょうけれど、『IDOLY PRIDE』に関してはサニーピースと月のテンペストのユニットそのものが答えなのではないかと考えています。

 

 

④麻奈と遙子

『IDOLY PRIDE』では長瀬麻奈がアイドルとしてかなり神格化されている節がありますよね。新人ながら破竹の勢いでその名を世に轟かせ、今後のアイドル界を牽引していく逸材のように映ります。

 

一方で5年前に同じ星見プロでアイドル活動をしていた遙子はお世辞にも売れているアイドルとは言えませんでした。改めてアイドルとして琴乃達としのぎを削っていくわけですが、加入時にすずには事務員だと勘違いされていた始末。

 

ここ、すごくリアルじゃないですか。

数え切れないほどのアイドルがいる時代。AIでランク付けされるような世界において、いかにたくさんのアイドルが活動しているかが伺える中で、日の目を見ないアイドルって山ほどいるはずで。

 

麻奈があまりにも目立っていますけど、その光が眩しすぎるがあまり近くの存在の影は濃くなっていくばかりで、その存在に目が行かないというか。

 

遙子からしたら人気を博すアイドルがすぐ近くにいるのに、自分は燻ったままだという状況に焦りを覚えないわけはなく、苦悩もあったに違いないんです。それでも諦めることなく事務所にその身をおいてこの度のプロジェクトで奮起していく姿はとても美しいものですし、アイドルに関わらず多くの人々に勇気を与えてくれる素晴らしい心意気ですよね。

 

親の決めた道から外れて自分がしたいことをするためだという怜のバイトをする理由にも言えますけど、それぞれのキャラクターがトップアイドルを目指して努力していく過程に、我々に勇気を分けてくれることもあって『IDOLY PRIDE』の魅力のひとつだと思います。

 

 

⑤麻奈と琴乃

本作において長瀬麻奈の存在はとても大きいものです。小さな街から生まれたアイドルは瞬く間に人々を魅了し、トップアイドルへの階段を駆け上がっていきます。

アイドル達にとって目指す目標であり、超えたいと願う憧れの存在。それが長瀬麻奈。

 

妹の琴乃はそんな麻奈の姿を見て過ごすわけですが、次第に大好きな姉と過ごす時間を奪われていきます。

 

5年前に麻奈が高校2年生だということをふまえると当時の琴乃は小学6年生であると推測できますが、まだまだ遊び盛りで5歳差の姉を慕う描写もあったことから、一緒に過ごす時間が減っていくことはとても気落ちしたことでしょう。

 

さらには周囲には無意識下で姉と比べられ、劣等感もあったに違いありません。麻奈の高校卒業ライブを横目にする琴乃の視線が冷ややかだったことからも、「アイドルの長瀬麻奈」のことを受け入れていなかったのが当時の琴乃でした。

 

そもそも琴乃がアイドルを目指すことを決意したのは、姉を亡くしてから少しタイムラグがあるんですよね。その時間はきっと琴乃に重くのしかかり、様々な感情を覚えたはずで。

だから決断に至るだけの覚悟は十二分に見て取れるわけですが、拒絶反応を見せていた「アイドルの長瀬麻奈」の夢のために階段をのぼり始めた琴乃の想いには胸にくるものがあります。

 

アイドルになっても姉と比較されてしまい、劣化コピーとまで言われるしまうこともありましたが、麻奈の凄さを改めて肌で感じたことは言うまでもないでしょうし、孤独だった琴乃がひとりではなく仲間と共にその道を突き進んでいく姿勢に変わっていくことも相まって、彼女の行く末はしっかりと見届けたい所存です。

 

 

最後に、冒頭に書いた『IDOLY PRIDE』に感じる不安について少しだけ触れますけど、あれほどの謳い文句で展開されている本作に対しては結局のところ「何を魅せてくれるのか」というところでハードルが相当なところまで来ているんですよね。

 

例えば麻奈の身に起きたことを1話に持ってくる興味付けや幽霊となって存在している点などは他作品とは違った色がありますけど、各キャラクターの掘り下げ方やアイドルにかける想いの描き方など物足りなさは確かにあって、ここからどうしていくのかなと。

 

演出面についてはさくらの心臓の件にも感じていて、あれほど直接的な描写ってなんと言いますか、美しさに欠けていて気持ちが入りにくいんですよね。もっと行間を読ませてほしいと言うか。逆にあれがミスリードなのであれば個人的には一気に評価点に変わりますが…果たしてどのように描かれていくのか。

 

と、最後は少しマイナスなことも書きましたが、毎週楽しく観ている『IDOLY PRIDE』。メディアミックス含めて今後も楽しみです。