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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』感想/幸せの多様性を現代でも提示してくれる名作がここに

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ルイーザ・メイ・オルコットによる世界的名著『若草物語』は子供の頃に読んだことがある程度で恥ずかしながら映像作品はこれまで触れてこなかったのだけど、鑑賞後には過去作品にも触れたいと思うほどに『ストーリー・オブ・マイライフ わたしの若草物語』は大きな魅力に溢れていた。

 

しっかり者で控えめな長女メグ、活発で自分を曲げない次女ジョー、内気だが心優しい三女ベス、人懐っこく自分の夢にまっすぐな四女エイミー。今作は次女のジョーを主人公に据えながらも四姉妹それぞれの物語を紡いでいくのだが、まず演者が非常に光っていて素晴らしかった。

 

ジョーを演じるのは今作の監督グレタ・ガーウィグ作品『レディ・バード』でも起用されたシアーシャ・ローナン。若くしてアカデミー賞に度々ノミネートされる実力派だ。

結婚して家庭を築くことこそが女性の幸せだという旧来の風潮に反し、結婚もせず小説家として生きていこうと決意するジョーの喜怒哀楽を繊細に演じている。

 

ハーマイオニーのイメージをすっかり脱却したエマ・ワトソンは、メグの人物像にかなりマッチしていた印象だ。結婚しても裕福とはいえない暮らしをしながらも本来求めていた幸せを再確認していく過程に女性の内なる美しさが際立っていた。

 

ベスを演じたエリザ・スカンレンは劇中のみならずこちらにも癒しを与えてくれる優しさが感じられるほか、物語としても重要な役目を見事に演じきっている。

 

『ミッドサマー』ですっかり話題になったフローレンス・ピューは、四女エイミー役。あろうことか花飾りを頭にするシーンがあったので祝祭が始まらないかそわそわしていたが、心配ご無用と言わんばかりに元気な役柄が光っていた。

 

また、彼女らの近くに住むローリー役には『君の名前で僕を呼んで』が実に印象深かったティモシー・シャラメ。あの頃から比べるとすごく大人っぽさが増していて、本作の役には彼しかいないとすら思わせるハマり役。あの歳で官能的な魅力すら漂わせるのだから今後どうなってしまうのだろう。

 

そしてマーチ叔母さん役のメリル・ストリープは言わずもがななのだが、個人的に特に良く映ったのは四姉妹の母親を演じたローラ・ダーンだ。子供への愛に溢れ、夫を献身的に支え、他人であろうとも手を差し伸べる優しさには心を揺さぶられる。

 

そう、この作品を観ていて終始感じたのが「愛に溢れている」ことで、それは姉妹の仲睦まじい姿だったり、それぞれが異性を想う気持ちだったり、マーチ家に親身になるローリーや祖父だったり…。時には叔母さんが心をチクリと刺してくる発言をしてくる場面もあるものの、彼女にも何らかの過去があったのだろうと思わずにはいられない。だからこそ現実を見せ姉妹に引導を渡しているのではないだろうか。不器用なりに愛を与えている姿が確かにそこにはあったのだ。

 

素晴らしいのはキャストだけに留まらない。アカデミー賞衣装デザイン賞の受賞も納得の衣装の数々。日常や社交界など両極端ともいえる場面でも派手すぎず地味すぎず、画面に映える質感が見ていて心地良い。

また、美術や舞台設定がしっかりとなされているからこそ、衣装の良さが際立つ。スタッフ陣の手腕がこれでもかと発揮され、作品に彩りを添えているのがよく分かる。

 

さらには監督は本作の製作にあたり、自らも大きな影響を受けた『若草物語』への敬意を表しながら、大きな改変をすることなく作っていったのだそう。その上で、7年前の過去と現在の2つの時間軸を交錯させながら物語を進行させていく手法をとっている。「現在起きた出来事」の起因や伏線を「7年前に起きた出来事」の回想を挟み込むことで各人物が立ち返り、そこから次に進んでいくという構図が出来上がる。そして、それらの描写が丁寧で観客は姉妹らに感情移入しやすくもさせてくれている。現在を寒色、過去を暖色にして時系列を示すその映像美で分かりやすいようにと、技術面に加え原作への監督のリスペクトが伺える。

上述の「愛に溢れている」という点から述べれば、スタッフ陣の愛にも満ちているのが『ストーリー・オブ・マイライフ』なのだろう。

 

本作は原作をきちんと踏襲して女性の自立をひとつのテーマとし、強い女性像を理想として掲げるのではなく苦悩の末に選んだ道に幸せを見出すことの尊さを提示している。

 

自立した女性像を描く作品は近年多く見られるが、果たしてそれだけが正義なのかと言うと、決してそうではない。大切な人に尽くす女性だって、派手な暮らしをせずとも小さな幸せに喜びを感じる女性だって、何も間違ったことではない。幸せの多様性に否定的なのではなく、覚悟を持って決めたことなのであれば、それは素晴らしいことなのだと今一度説いている。

 

ともすれば『ストーリー・オブ・マイライフ』が描いていることは、いつだって人々の心を支えてくれることなのかもしれない。およそ150年前に発表された小説が現代でもこれだけ多くのファンを獲得し続けていることが証拠だ。