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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

『タイラー・レイク -命の奪還-』感想/ひとりの傭兵が戦う先は罪からの解放

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アベンジャーズ/エンドゲーム』のアンソニー&ジョー・ルッソがプロデュース、MCUではソーを演じたクリス・へムズワースが主演として話題の『タイラー・レイク -命の奪還-』がNetflixにて配信となった。

 

このような情勢ということもあって新作映画が次々と公開を延期し、映画館は休館を余儀なくされている今日この頃。毎週のように映画館に通っていた映画ファンにとっても、退屈な週末が続いているのではないかと思う。

 

そんな中で久々のハリウッド映画の新作に触れられる喜びはひとしおである。映画館に行けない悲しみは相変わらずだが、サブスクの強みが出たことは間違いない。

 

 

リアルにこだわり、出来る限りCGを使わないスタイリッシュなアクションを終始展開する本作の監督を務めるのは、サム・ハーグレイブ。

 

アベンジャーズ』でキャプテン・アメリカを演じたクリス・エヴァンスのスタントマンを務めていたほか、『アベンジャーズ/エンドゲーム』ではアクションコーディネーターもしていたキャリアを持つ人物だ。

 

洗練されたアクションを繰り広げて拡大していった『ジョン・ウィック』シリーズや『デッドプール2』を手がけた「87イレブン・アクション・デザイン」の中核メンバーでもある。

 

ご存知ない方々のために「87イレブン・アクション・デザイン」とはなんぞや、というところからなのだが、その名の通りアクションシーンから俳優の訓練までを担う会社だ。

 

設立したのはデヴィッド・リーチチャド・スタエルスキ。それぞれ、キアヌ・リーブスブラッド・ピットのスタントダブルとして徐々に名を馳せていった人物だ。

意気投合した彼らは会社を立ち上げ、『ジョン・ウィック』では共同監督として名を連ねるほか、それぞれが『ジョン・ウィック』シリーズや『ワイルド・スピードスーパーコンボ』、『デッドプール2』などで監督を務めるなど、作品を観たことのある人からすると圧巻のアクションの連続だったことからも、そのすごさはお分かりのことだろう。 

 

kuh-10.hatenablog.com

 

今、アクション映画を撮らせるなら彼らだ!とすら言われる集団に名を連ねている人物のひとりが、『タイラー・レイク』の監督、サム・ハーグレイブなのだ。

 

携わるスタッフ陣や予告からの期待の通り、本作はアクションに継ぐアクションで、息つく間も与えぬほど肉弾戦が連なっている。

 

数々の激戦を乗り越え現在は裏社会の危険な仕事を請け負う傭兵タイラー・レイク(クリス・へムズワース)が、連れ去られた麻薬王の息子オヴィ(ルドラクチャ・ジェイスワル)の奪還任務に挑んでいく。

オヴィの救出を難なく成功させるタイラーとそのチームメンバーらだったが、それにより警察と組織の両方から命を狙われることに。

 

まず、オヴィの救出シーンは監督のご紹介と言わんばかりの銃撃戦そして肉弾戦。突入して下っ端を次々と片付けていくタイラーだが、豪快に銃をぶっぱなすわけもなく、まず急所を撃ってから確実にとどめを刺しにいくあたり、さすがのアクション畑の監督である。

 

机やコップを利用する敵の倒し方や折れた熊手の先に相手の顔を押しつけるといったアイデアもさすがのもので、一気に本作の方向性を分からせる怒涛のアクションだ。それでいて敵を一掃した後に子供逃がすあたり、タイラーの抱える過去を明らかにする布石ともなっている。

 

オヴィを奪還した後も、緊迫した時間は続く。サジュ(ランディープ・フーダー)や警察から逃れるためダッカの市街地を走るタイラーとオヴィを、ワンカット風に撮っていくのだけれど、これが凄まじい臨場感を演出している。

 

後部座席から、敵の車体から、目まぐるしく移り変わる視点でのカーチェイス。砂埃を巻き上げ、銃撃戦と同時にカーアクションのスピード感そのままで敵から逃げ仰せようとする緊迫した中での迫力満載のシーンだ。

 

建物内に逃げ込む2人は、縦横無尽に駆け巡り敵を薙ぎ払っていく。まるで近年のシューティングゲームを見ているかのような、いやそれ以上のリアルなアクションを見せつけられていくのだけど、その凄さには舌を巻くばかりである。

 

隣の建物に飛び移ったり近接戦闘の末に路上に落ちるところもカメラマンも一緒に飛んで撮っているので、これほどの臨場感を演出できるのだろう。

 

 

見応え抜群。興奮の連続。さらには、物語が進行していく中で徐々に明かされるタイラーの過去に、作品のドラマ性も帯びていく。

 

長いこと会っていない妻、そしてリンパ腫で亡くした息子の存在が明らかになる。タイラーは息子の死に直面することから逃げ、自ら志願してアフガニスタンへと出征したことを悔いていたのだ。

 

冒頭で酒を煽って落差30mもある崖から湖へと飛び込み水中で思いに耽けるタイラー。何かと死に場所を探しているかのような描写があるわけだが、所々でチラつく浜辺での息子の姿が繋がってくる。

だから、任務によってチームがハメられてしまったことによりオヴィを置き去りにするように言われるタイラーは、それを拒絶する。それはオヴィの父が麻薬王であろうとも、息子を失う辛さを知る親としての決心でもあるだろうし、現実から目を背けてしまった過去を悔いる男としてのけじめもあったことだろう。

 

また、敵対していたサジュが家族を想い戦っている事実もまた、人間ドラマを感じずにはいられない。敵にも魅力があると作品がより味わい深くなるし、その敵がいずれ味方となればこれはもうアクションやヒーロー映画の醍醐味のひとつとも言えるけれど、そういった意味で捉えれば本作のサジュは非常に大事な役回りだ。

 

さらには、タイラー達を追う青年ファラドもその一端を担っている。仲間を殺させぬようにとっさに機転を利かせる頭の良さ、それをギャングの頭相手に言い放てる度胸。タイラーに引き金を引こうと躍起になる狡猾さ。彼の右頬には刃物で裂かれたような痕があり、その過去が敵となるに至るまでを何となく思わせてくれる。

 

クライマックスの橋のシーンでは、サジュが命を落とし、満身創痍のタイラーはファラドに撃たれてしまう。無事にオヴィを仲間の手に引渡したことを確認し、小さく頷くタイラー。自分の役割を果たしたことで、タイラーは過去の自分への罪の意識から、少しばかり解放されたのだ。

 

だから、プールから出たオヴィの奥に映る男の正体が明確にならずとも、含みを持たせるまでにとどめている。

オヴィもまた、自分のせいでタイラーを失ったと悔いているはずなのだ。それはかつてのタイラーと同じような飛び込み方でプールに入り水中にいる描写からも明らかであり、水面に顔を出して男に気づけばきっと、オヴィも罪の意識から解放されるのだから。

 

タイラーの過去やタイラーとオヴィとの関係性をより深く掘り下げた方が個人的にはもっと好みだったとは思うが、それを差し引いても目を丸くするアクションの数々には満足である。

 

監督の抜群のセンスが光ながらルッソ兄弟の見せ方に魅了され、キャストの魅力が溢れた1作だった。