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映画、アニメ、漫画、音楽などの雑記。ファーストインプレッションを大切に。

『ブルーピリオド』7巻感想/これまでを振り返って立ち止まるその先に希望を感じたい

ブルーピリオド(7) (アフタヌーンコミックス)

先日一気読みして感銘を受けた漫画『ブルーピリオド』の7巻が発売となったので、さっそく読んだ。そして泣いた。

 

やはり読ませる物語というのは山があれば谷もあるし、波が寄せては返す、そんなもので。

主人公・八虎が絵に魅せられてその世界に身を投じてから体験してきたものの集大成のひとつとしての6巻。そして、これまでを振り返って、周りを見渡して、立ち止まる7巻。

苦しみもあるけれどこの先の光も微かに見える喜びが本巻からは垣間見えた。

  

kuh-10.hatenablog.com

 

 ※以下7巻までのネタバレを含めての感想となります

 

 

 

6巻ではとうとう東京藝術大学の入試、運命の合格発表の結果が出た。

絵への深い理解も持ち合わせず筆だってろくに持っていないのにも関わらず読者が得られる、八虎と同じくして藝大入試を受けたような疑似体験。だからこそ、トラブルにも見舞われ満身創痍の中で終えた入試を見事に現役合格となった時、涙した読者は多いことだろう。

 

両親や先生、美術部や予備校の仲間達と共にあった高校生活を終え、7巻からは『大学編』がスタートした。

 

倍率だけで見れば東京大学よりも難関とも言われる藝大への合格を受けてもなお、未だに夢見心地な八虎。試験で合格に足る作品を描くことが出来たのを認められた自覚はあっても、得体の知れない恐怖心が離れない。

 

だから、藝大入学は通過点だと言い放つ世田介と自らの気持ちとの差に恐怖心が煽られる。

 

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『ブルーピリオド』第7巻 26筆目「藝大ライフ1日目」より

 

しかしどうだろう。高校2年生から絵を描き始め藝大を現役合格した八虎はそんな不安を吹き飛ばすほどの結果を残し、同じ藝大生と切磋琢磨していくのではないかと、思わなかっただろうか。少なくとも僕はそんな希望的観測が頭をよぎった。

八虎は経験が周りより少ない分、吸収もするし凝り固まった技法やノウハウがあるわけでもない。だから大学での学びを活かしつつ自らの世界を取り入れていくのではないかと。そう思った。

 

実際、八虎のような現役合格者は少ない。知り合う人々のほとんどが、2浪3浪は当たり前。4浪5浪だってザラな世界だ。合格したことが自分の実力に見合っていなかったと思っていた八虎も現役での合格をした事実を徐々に実感し、周囲とのレベル差も杞憂だったのではないかと安堵していく。勝手に自分の実力のハードルを下げ自信がなかっただけだったのだと希望を見出していく。

 

そしてその希望はすぐに打ち砕かれる。

 

入学早々に八虎は課題において作品のクオリティ以前に、描いた作品への明確な考えや想いが他者に比べて曖昧だと気付かされてしまうのだった。

何故あの絵を描いたのか。何故この色を使ったのか。何故その技法を駆使したのか。何を捉えて何を感じ何を表現したかったのかといった、作品を生み出した意義が足りていない。合格だと分かった時から感じていた、合格者たちの“「上手い」「下手」の次元の話をしていない”ということに気付かされる。いわゆる受験絵のままではいけない、予備校で習ったことは忘れろとまで言われる現実が心に刺さる。教授からの質問にも答えられないまま、八虎は藝大の洗礼を受けることとなるのだ。

 

別に教授らも断じて攻撃的な姿勢なわけではない。それでもどの教授にも、バトル漫画のように背後に「ゴゴゴゴゴゴ」とでも書かれているのではないかと錯覚してしまうほどに、圧を感じてしまう。

それは画力はもちろんのこと、八虎と読者の心情をリンクさせているが故の山口先生の見せ方の上手さだろう。影の付け方や配色がそれらを助長させるし、このあたりの技術の高さにも本当に舌を巻くばかりだ。1コマ1コマじっくりととにかく見入ってしまう。

 

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『ブルーピリオド』第7巻 28筆目「ガツーン」より

 

大学での出来事を受け、筆を取る手が止まってしまう八虎。久々に会った高校の同級生と歩いた渋谷は、きっと青くはなかったことだろう。

 

それでもその落胆の日々を過ごす中で、少し明るさをくれたのが桑名さんで。上野動物園で出くわした彼女とのやりとり、すごく好きでした。藝大合格の喜びを噛み締めながら、まさか次巻でここまでズタボロにされてしまうとは思ってもみなかったこのタイミングで、自分が変わることの難しさや怖さを身に染みて味わっていた桑名さんだからこその言葉の数々。

 

大葉先生でも橋田くんでも世田介でもきっとダメで、姉が藝大現役首席合格で両親も藝大卒業生という立場でその目標に到達することの叶わなかった桑名さんじゃないといけない役回り。

でも、これをきっかけに彼女もまた少しずつ変わっていく決心をしていて、刺激し合いながら高みを目指していく姿に感動するばかりですよほんとに。

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『ブルーピリオド』第7巻 29筆目「俺、なくね・・・?」より

 

付き合い程度に観戦していたサッカーの試合に、自分から興味を持つ姿勢を見せて終わる本巻。

趣味ですら自分には何もないと絶望していた八虎が心を殺さぬよう可能性の幅を広げ始めていく様には、やはり今後の生き様を見せて欲しいと強く思わされる。立ち止まってもしかしたら少し遠回りをするかもしれないそんな道も、広い道が開かれているかもしれない。

そんなこれからが楽しみであると共に、7巻では八虎の様子を見守る世田介の表情にも含みがあったので、このあたりも注目したい。

 

あと、登場の仕方が派手だったので後々出てくるだろうと思っていた三木きねみちゃんもしっかり出てきてくれたのはすごく嬉しかったですね。この作品、登場キャラクターがみんな本当に素敵なんですよ。全員漏れなく応援したくなる、そんな弾けた魅力を持っていて、眩しくてたまらない。それぞれが目標を持って道を進む先に、希望を抱いていてほしいと願う7巻でした。